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エネルギー量子

大学課程の化学では、その基礎として量子論に触れることになります。

量子論とは、私達が目視できないような非常に小さいものを扱う学問体系のことです。

また、これまで扱ってきた事物や対象は滑らかに変化するような連続的な量でしたが、それらが量子の世界ではある状態しか取り得ないといった慣れない取り扱いを行っていくことになります。

ここでは量子論の幕開けとしてエネルギー量子というエネルギーの最小単位について見ていくことにしますが、

  • 量子とは結局何のことなのか
  • エネルギーの最小単位とは一体どこからやってきたのか
  • なぜ決まった状態しか取ることができないのか

といった疑問を持ったりしないでしょうか…

当コンテンツはこれらを考える理由について解決を目指す学習ページになっています。

量子・量子化とは

そもそも「量子」が聞き慣れない言葉だと思いますので、ここからの理解が求められます。

まずは、”目では見えない非常に小さなもの”というイメージで簡単に認識しておくことにします。

原子や電子、原子核などの粒子をイメージしていただければいいでしょう。

化学界隈ではドルトンによって「物質の構成単位は原子である」といった”原子説”が提唱されました。

そして原子は、アインシュタインやペランの功績によって存在が証明されたことを別のコンテンツでも解説しています。

この辺りまでは、実体が伴ったような話なので目で見ることができないとしても現実味がありますね。

一方物理においては、様々な物理量に対して最小単位を見出そうとする試みが行われます。

といいますか、そう考えざるを得なかったとでも言ったほうが正確ですかね。

それについては当コンテンツ終盤で明らかにしていきます。

※ここで注意していただきたいですが、「最小単位」の「単位」とは[s]とは[m]のような次元の話ではなく、ユニットとしての単位ですので勘違いしないようにしましょう。

私達が体感するような現象の根源を見つけていくことが、物理での醍醐味となってくるわけですが、その根源を探求しようとするとミクロな領域に足を踏み入れる必要があります。

例えば、物質においてはミクロな視点で見ていくとたどり着く構成単位が原子になるということは先程の原子説についてお話をした通りです。

単体物質であれば、(同位体の存在を除いて基本的に)全て同じ原子から構成されていますよね。

全て同じ粒子であるということは、1個、2個、…と言ったように整数値で数えることができるはずです。

こういったものを「離散的(とびとびの値)」であるとか「不連続」であると表現します。

他にも離散的な例を見てみましょう。

定規を例にあげると数え方は、1本、2本...と数える方が多いでしょう。

これも離散的ですね。

では、定規で測定できる長さはどうでしょうか?

定規には目盛りが振ってありますが、2.3435...など、実際一般的な定規ではそこまでの精度で読めないでしょうが、どこまで読むかによって無限通りの答えが出てきそうです。

これを先程の例とは逆に「連続」であるといいます。

連続的に扱えることは条件がゆるいことを意味しています。

逆に離散的に扱うということは条件が施されているということで、定規の場合はちょうど整数値しか取れず1.5個といったような扱いは普通しないということです。

※物理量が整数値しか取れないということではなく、決まった値しか取ることができないということに注意です。例えば、電荷の単位である電気素量は \(1.6 \times 10^{-19}\) [C]であったことを思い出しましょう。電子2個分で \((1.6 \times 10^{-19}) \times 2\) [C]、電子 \(n\) 個分で \((1.6 \times 10^{-19}) \times n\) [C]となります。この例では \(n\) が整数値を取ります。この例の様に基本的に量子論で扱う物理量は (物理量) = (単位量) ✕ (整数) といった形をとっています(もちろん例外もあります)。

定規から原子の話へ戻りますが、このように離散的に扱う原子の個数は普通、1個、2個、3個...といったような「決まった値」しか取れません。

こういった決まった値しか取れなくすることを量子の世界では「量子化」と呼ぶのです。

決まった値しか「取れなくする」とはどういうことでしょうか?

古典物理学の範囲において、例えばエネルギーや角運動量(どれくらいのスピードで回転しているかを表す量)は連続量として扱うことができます。

ところが量子の世界、すなわちミクロな世界で議論し始めると、決まった値しか取れなくなってしまうということです。

以上のように、離散化されているものが量子というものなのですが、なんでも離散的であれば量子であるかと言われれば間違いでしっかりと定義があります。

それが次のとおりです。

量子とは、粒子と波の性質をあわせ持った、とても小さな物質やエネルギーの単位のこと

(引用:文部科学省)

これだけ見せられても、初めての場合は理解に苦しむと思われます。

とにかく現状では、量子とは「物理量の最小単位のこと」であると思っておきましょう。

ここまできて、分からないことだらけになってきますが、例えば

  • 粒子と波の性質をあわせ持つとはどういうことか…
  • エネルギーの単位ってどういうこと?

といった疑問が溢れ出すのですが、一つずつ解決していきましょう。

エネルギーも量子化する

この節ではエネルギーの量子化、すなわちエネルギー単位について見ていくことにします。

まず、量子とは物理量の最小単位のことでした(詳細は前節へ)。

例えば、物質においては最小単位として原子が当てはまります。

原子の例は非常に分かりやすい話ですね。

私達の目に見える身の回りのモノの最小単位が原子であるというのは容易く受け入れられることでしょう(もちろん昔はそう簡単には受け入れられなかった)。

ここから話が進んで、量子の定義に「物理量の最小単位」とあるように、原子などの現実的に形あるもの以外に、人為的導入された物理量であるエネルギーに対しても量子化を行っていくことなります。

歴史的な順序では、「エネルギー単位を考えてみましょう」といった流れではなく、「エネルギーにも単位があると考えざるを得ない」といった流れではありますが…

一体どのようにエネルギー量子の発見につながったのでしょうか?

答えは光についての研究からでした。

黒体放射

物体を500℃を超えるような高温で加熱すると物体は赤熱していき、更に高温に晒すと黄色や、青白く光出します。

鉄球をバーナーで炙ることによって段々と赤く光出す様子を思い描いていただければ結構です。

逆に、加熱によって赤熱(発光)している物体の光の色(波長あるいは振動数)を見ることで、その物体が今一体何度であるのかを知ることができるようになります。

しかしながら、一般的な物質は外部から物体表面に到達した光をも反射するという性質があります。

そのため観測対象である物体自身から放射する光と同時に、反射する光も合わせて観測してしまうことになります。

そこで、理想的に外部からやってきた光を全て吸収するような理想的な物質を考えることにしました。

全ての光を吸収し、反射を抑制するため、常温では黒色に見えます(ただし加熱すると光ります)。

そのような物質は「黒体」と呼ばれています。

一般的な物質と黒体

この黒体を用いることにより、物体を加熱したときに発する光のみを観測することが可能になります。

黒体放射

これを「黒体放射」と呼ぶのです。

※完全な黒体を用意することは困難であるために、実際には空洞を利用した実験が行われます。また、「鉄が赤熱して発する光を知りたいのに黒体というよく分からないものから発する光を測定してもいいのか?」と思われるでしょうが、これに関しては全ての物質について加熱した際に発する光の波長(あるいは振動数)が同じ、すなわち物体の材質には依存しないことが示されています。空洞を利用した黒体放射の実験の詳細や、材質に無関係な点については別のコンテンツにて解説いたします。非常に気になって先へ進めない方もいらっしゃるかと思われますが、以降このことを理解していないとつまづいてしまう点はございませんのでご安心ください。

次に、この黒体が発する光の波長(あるいは振動数)はどのような内容になっているのか、そしてエネルギー量子の正体について触れてみることにします。

プランクの法則

プランクの分布式

前述の黒体なるものが、加熱されたときにどのような光を発するのか(スペクトルといいます)を解き明かしたのがドイツの研究者マックス・プランクです。

実際にはその他多数、この黒体放射スペクトルの理論研究を行っていた方がいますが、ここでは割愛させていただきます。

プランクはそれまでに公表されていた理論式を改良することによって、黒体放射スペクトルを完全に説明したのです。

実際には次のように記述されます。

式(1)

\[ f(\nu, T) = \frac{8\pi\nu^2}{c^3}\frac{h\nu}{\exp\left[\frac{h\nu}{k_BT}\right]-1} \]

ここで、\(\nu\) は振動数、\(c\) は光速、\(h\) はプランク定数、\(k_B\) はボルツマン定数、\(T\) 絶対温度、\(\exp[]\) は指数関数です。

式(1)が描くグラフを以下に示しています。

今回は温度領域500[K]から6500[K]までをプロットしてみました。

プランクの法則のグラフ

図は横軸が波長 \(\lambda\)、縦軸が光の強度(の密度) \(f(\nu, T)\) を表しています。

波長と振動数の間には、\(c = \lambda \nu\) の関係があるので式(1)から \(\nu\) を \(\lambda\) に変換すればグラフが描けます。

グラフの形状はあるところをピークに左右に広がる形になっていることが分かります。

この様に、黒体が発する光は単一の波長の光だけではなく様々な波長の光が放射されていることを示しています。

※ちなみに単一の波長の光が放射されているとすると、次のような一箇所だけに線が立ったようなグラフになります。 単一波長のスペクトル

この様にある振動数成分の光がどのくらいの強度で含まれているのかを示すグラフを「分布関数」と表現します。

またグラフの様子を観察してみると、黒体の温度が上がるにつれてグラフが短波長側にシフトしていることが分かります(温度上昇に伴ってグラフのピークトップが短波長側に移動しています)。

グラフ中には私達が認識することのできる可視光領域を示していますが、黒体を加熱していくことにより最初は長波長である赤色の光が放射されるために、私達は黒体が赤く光っていることを確認することができるのです。

そして、徐々に温度を上げていくことによって短波長側の光も同時に放射するようになるので黒体は白色光を発していることを確認することができます。

※可視光線の全領域の波長の光を混ぜると白色に見えることを思い出しましょう。

光の三原色

さて、ここまででプランクの法則が表す式の説明は終わらせて、どうしてこの光の研究がエネルギーの量子化に繋がったのか見ることにしましょう。

多くの入門書などはここで説明が終了していることが多いために、エネルギーが離散的であるということが全く伝わってこないのです。

もしそのような終わり方をするのであれば、むしろ黒体放射をトピックに入れずに、

”身の回りの物質は原子という最小単位から構成されていることと同じ様に、エネルギーなどの物理量も最小単位がある”

ということのみを伝えてくれたほうが、「深入りせずに本業(化学)に専念せよ」という事でよっぽど親切だと思った過去があります。

エネルギー量子の誕生

物体を高温に晒すとどうして光を放射するのでしょう?

プランクは、放射を放つ正体として”共鳴子”なるものが存在することを仮定し(黒体中にN個存埋まっている)そこにエネルギーを分配することを考えました。

※現代的には原子や分子中の双極子などと考えられています。ちなみに当時はまだ原子の詳細な構造等はまだよくわかっていませんでした。

熱・統計力学的にはエネルギー分配の仕方の総数 \(W\) が、その系状態(ここではエントロピー: \(S\) )を次式で特徴づけるわけですが、

式(2)

\[ S = k_B\ln W \]

もし、エネルギーが連続的であれば分配の仕方は無限にバリエーションが有ることになります。

すると式(2)は無限に発散するために破綻してしまうわけです。

そこでプランクはエネルギーが有限個にしか分割されないということを条件に分布式(1)を導いたのです。

エネルギーの分配

エネルギーがP個に等分されるとし、N個の共鳴子にP個のエネルギーの単位のようなものを分配する場合、その総数は、

\[ W = \frac{(N + P - 1)!}{(N - 1)!P!} \]

といったように表されます。

以降はここでは説明いたしませんが、これがエネルギー単位、すなわちエネルギー量子誕生の始まりになります。

実はプランク自身、この仮定に対して「大発見だ!」と喜んではいられなかったそうで、発表までひどく考え込んだそうです。

しかしながら、現代においては非常に重要な基礎となっていることは間違いありません。

そして先程の課程で与えられるエネルギー単位 \(\epsilon\) は、

式(3)

\[ \epsilon = h\nu \]

となって、これをエネルギー量子と呼ぶのです。

まとめ

  • 量子とは、物理量の最小単位のこと(粒子と波動性は次回以降に解説)。
  • 量子化とは、物理量が離散的な決まった値しか取れないように制約条件を施すこと。
  • プランクが物質は発行する際に放射する光のスペクトルを理論的に説明し、その際にエネルギーの量子化の必要性を迫られた。これが量子論の幕開けとなった。
  • エネルギー量子の大きさは \(\epsilon = h\nu\)

以上、お疲れさまでした。