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はじめに

量子化学とは

化学では薬品と薬品を混ぜ合わせ、化学変化をおこしたり、素材ごとにどのような性質を持ち合わせているのかを研究していきます。

これらで扱っているものは、原子や分子からなっており、様々な構造を持ち合わせているのですが、私達は過去の経験を通して(経験的という)何からどのようなモノができ、またどのような性質を持っているのかということを知っています。

例えば、ブドウ(グルコース)からお酒(アルコール)が作られるのはご存知のことと思われます【化学反応】。

\[ \text{C}_6 \text{H}_{12} \text{O}_6 \rightarrow 2\text{C}_2 \text{H}_5 \text{OH} + 2\text{CO}_2 \]

他にも食塩を例に上げると、食塩は(砂糖と比較して)冷えた水には溶けづらいこと【性質】や、食塩水から食塩の結晶を作ったことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、綺麗な正八面体の結晶ができますね【構造】。

以上のような化学の研究対象である反応・性質・構造は扱う物質によって左右されます。

しかし、昨今技術開発が著しく早い進化を遂げている中、新しい素材の必要性が挙げられておりますが、それら新しい素材に対して、どのような性質があるのか、どのような合成手法が最も合理的なのかなど、実際にフラスコ片手に実験をしてデータを集めるのはとてもじゃないですが時間がかかります。

また時間の浪費(化学計算もそれなりに時間はかかりますが)以外にもその新しい素材はリリースしても大丈夫なのかといった環境問題などの問題も孕んでいます。

そこで、この量子化学を利用することにより、物質の反応・性質・構造の仕組みを解明することができると同時に、予測をすることができるようになります。

これは非常に素晴らしいことだと思いませんか?

具体的には、まだない物質を量子化学を利用して、どのような性質をもっているか計算することができるというのです。

そして幸か不幸か量子化学は化学の基礎に近い部分に位置しており、化学系学生は必修科目になっています。

量子的考え方や視点を持ち合わせているかどうかで、今後の研究等にも大きく影響を及ぼすことでしょうから、この機会に是非量子化学に触れて見てください。

基礎は量子力学

量子化学は量子力学に基づいて作られた理論体系です。

量子力学とは、これから扱おうとしている原子や分子からそれ以下のサイズの世界(系という)で成り立つ理論です。

それは、私達が現実的に理解できるような現象ではなく、感覚的に理解し難い事象が普通に起きているとされています。

その実例が電子の”粒子と波動の二重性”であり、「電子は粒子としての性質と、波動としての性質を合わせ持つ」というものです。

量子論の初学者はこの事実を受け入れづらく、学習初期の段階で挫折してしまう方が多いそう…

ではどうしてそのような理解が難しいような基礎学問を学ぶ必要があるのかといいますと、それは言うまでもなく化学反応・性質・構造を議論する上で最も重要なファクターを握っているのが「電子」だからですね。

これから電子を扱っていく以上、この量子的扱いを学習せずに跨いで通ることはできません。

しかし、安心してください。基礎としてはこの”よくわからない”量子力学という基礎学問は重要なのですが、量子化学という応用の範疇において、この”よくわからない”理論を念頭に複雑な議論をするというのは相当の理論方面を目指さない限り無いと思われます。

少なくとも、ここで私が紹介する量子化学の基礎の段階においては、粒子性と波動性というワードは出てきません(量子力学の説明段階は出てくる)。

ですから、一歩踏み出して実験結果を受け入れつつ学習を進めていただければと思います。

問題点と解決策

ここで、量子力学や量子化学を学ぶにあたっての問題点を先に述べておくことにします。

それは、学習難易度の高さです。

量子力学や量子化学では、高度な数学を必要とします。

これは古典的な扱いができないことから、グニャグニャした文字や記号ばかりで埋め尽くされたシュレーディンガーの波動方程式と呼ばれる偏微分方程式が現れたりするためです。

\[ \left[ -\frac{\hbar ^2}{2m_e} \left( \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2} \right) + U(\boldsymbol{r}) \right] \psi = E\psi \]

※上式は本編で詳しく説明します。

また化学で扱う物質は基本的に多電子系であり一般に解くことが難しく学習速度を著しく低下させるのです。

数学の面では、偏微分方程式の変数分離といった操作や特殊関数と呼ばれる複雑な関数、座標変換など高度な知識が必要になり、筆者もこれには非常に苦戦させられました。

とにかく初めは数式を追いかけるので必死になってしまうものと思われます。

しかしながら、基本的な方程式はシュレーディンガーの波動方程式のみになりますので、途中からは同じような計算が続きます。

そこで、量子化学での計算の目的はいったいどういうものなのかを理解していただけたらと思います。

そして、そのために筆者である私がどのような施策を提供するかをお伝えいたしますと、なるべく数式がどういった具合に展開されていくのかを省略せずに紹介することにしました。

大学以降の学習になるとたくさんの数式に触れることになるのですが、見たことのない数式を天下り的に紹介されると途端に思考停止してしまいかねないのです。

ですから、その数々の式がどのような前提で導き出されたものであるのかを知ることは非常に大切になってくるのですね。

ただし、あまりにも難解過ぎるものや、遠回りが過ぎているものに関しては筆者としても残念ながら割愛せざるを負えないこともございます。

ですが、最後まで付いてきてくれますと、量子化学の基礎が手にとるようにわかるようになっていることでしょう。

まとめ

  • 量子化学とは、物質の反応・性質・構造を理論的に説明するために体系化された理論のこと
  • 量子化学は量子力学に基づいて理論化されており、化学の主役である電子を記述するためには避けては通れない学問となっている

以上、お疲れさまでした。