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気体分子運動論

分子の立場から物質の性質を理解する分子運動論を用いて、無数の分子から構成される気体の圧力がどのように記述できるか理論的に導出していきます。

■このページで分かる内容のまとめ■

体積 \(V\) の容器に封入された気体の圧力 \(P\) は質量 \(m\)、平均速度 \(\bar{v^2}\) の分子 \(N\) 個によって次式で記述できます。

\[ P = \frac{Nm\bar{v^2}}{3V} \]

また分子運動論によって導かれた上記圧力表式から、気体分子のエネルギーを導くことができ

\[ \frac{3}{2} nRT = N \frac{1}{2} m \bar{v^2} \]

で与えられます。

これは、\(N\) 個の気体分子の運動エネルギーは、その気体の温度によって決まることを表しています。

立方体型容器の圧力

立方体型の容器に封入された気体を考えます。

立方体の容器に封入された気体

気体は細かな粒子である「分子」から構成されており、それらの運動によって気体の圧力が生じるとします。

分子1個が壁に及ぼす力を求め、その後で全分子の影響を考える方針で進めましょう。

容器壁に衝突する気体1分子

図のように分子が壁に衝突したときに壁に与えられる力は次の運動量と力積の関係から分かります。

式(1)

\[ \boldsymbol{f} \Delta t = m \Delta \boldsymbol{v} \]

ここからは更に \(x\) 成分のみを考えることにします。

分子が壁に衝突する前後での \(x\) 軸方向の運動量の変化は \((-mv_x) - mv_x = -2mv_x\) です。

逆に壁は \(2mv_x\) の力積を受けたことになるので

式(2)

\[ f_x \Delta t = 2mv_x \]

となり、直ちに1分子の衝突によって壁が受ける力が次式で与えられることが導かれます。

式(3)

\[ f_x = \frac{2mv_x}{\Delta t} \]

時間 \(\Delta t\) の間に1分子が壁に及ぼす力の大きさが式(3)で与えられることが分かりました。

これはそれ以外の分子でも同様です。

ただし各分子はそれぞれ異なる \(v_x\) の値を持つことに注意しなければなりません。

それらを \(v^{(1)}_x, ~ v^{(2)}_x, ~ \cdots ~ v^{(r)}_x\) のように区別することにします。

ここで \(r\) は階級数を表します。速度が \(v^{(i)}_x\) から \(v^{(i)}_x + \Delta v_x\) の間に属する分子は全て \(v^{(i)}_x\) と考え、それを \(r\) 種だけ与えるということです。

離散速度分布関数

実際は、各分子で全く異なる \(v_x\) を持つので、階級数を \(r \rightarrow \infty\) とすると連続的なグラフとなり、統計力学でマクスウェル・ボルツマン分布として扱います。

では \(\Delta t\) 間に壁に衝突する粒子数を求めましょう。

\(x\) 成分に \(v^{(i)}_x\) の速度をもつ粒子数を \(n^{(i)}\) とします。

また速度 \(v^{(i)}_x\) をもつ粒子の数密度を \(\nu^{(i)}\) とします。

\(\Delta t\) 間に分子が壁に衝突するためには、壁を底面とした高さ \(v^{(i)}_x \Delta t\) の空間内に分子が存在している必要があります。

したがって衝突分子数 \(n^{(i)}\) は次式で与えられることが分かります。

式(4)

\[ n^{(i)} = \nu^{(i)} S v^{(i)}_x \Delta t \]

ただし、向かい側の壁に衝突して跳ね返ってきた分子が今着目している壁に衝突しない時間範囲で考えることにします。

そして式(3)および式(4)の積を考えれば、 壁が \(\Delta t\) 間で速度 \(v^{(i)}_x\) の分子から受ける力を求めることができます。

式(5)

\[ \begin{align*} n^{(i)} f^{(i)}_x &= n^{(i)} \frac{2mv^{(i)}_x}{\Delta t} \\[15pt] &= \nu^{(i)} S v^{(i)}_x \Delta t \cdot \frac{2mv^{(i)}_x}{\Delta t} \\[15pt] &= 2mS \nu^{(i)} {v^{(i)}_x}^2 \end{align*} \]

そのまま \(i\) について和を考えると、\(\Delta t\) 間に壁に衝突する分子から受ける力 \(F_x\) になります。

式(6)

\[ F_x \equiv \sum_{i = 1}^r n^{(i)} f^{(i)}_x = 2mS \sum_{i = 1}^r \nu^{(i)} {v^{(i)}_x}^2 \]

ここで、速度の \(x\) 成分が \(v^{(i)}_x\) の分子の数密度 \(\nu^{(i)}\) について、分子は容器内で均一に満たされているとき、速度の \(x\) 成分が \(v^{(i)}_x\) である分子の総数を \(N^{(i)}\) とすると数密度はそれを容器の体積で割った量に等しいです。

式(7)

\[ \nu^{(i)} = \frac{N^{(i)}}{V} \]

したがって式(6)と式(7)から次式が得られます。

式(8)

\[ F_x = \frac{2mS}{V} \sum_{i = 1}^r N^{(i)} {v^{(i)}_x}^2 \]

上記で速度 \(v^{(i)}_x\) の分子総数 \(N^{(i)}\) を導入したのは \(x\) 方向の平均二乗速度に置き換えるためで、それは速度の二乗の数平均として次式で表されます。

式(9)

\[ \bar{v^2_x} = \frac{\sum_{i = 1}^r 2N^{(i)} {v^{(i)}_x}^2}{\sum_{i = 1}^r 2N^{(i)}} = \frac{\sum_{i = 1}^r N^{(i)} {v^{(i)}_x}^2}{\sum_{i = 1}^r N^{(i)}} \]

\(2N^{(i)}\) となっているのは速度の \(x\) 成分が \(v^{(i)}_x\) および \(-v^{(i)}_x\) の分子両方を計上しているためです。

つまり容器内の分子は等方的に運動しているので、速度の \(x\) 成分が \(v^{(i)}_x\) である分子と \(-v^{(i)}_x\) である分子の数は概ね等しいと考えられるわけです。

そして \(x\) 方向の平均二乗速度を用いて式(8)を書き換えると

式(10)

\[ F_x = \frac{2mS}{V} \left( \sum_{i = 1}^r N^{(i)} \right) \bar{v^2_x} \]

となり、直前に示した理由から容器内の分子の総数は \(N = \sum_{i = 1}^r 2N^{(i)}\) で表されるので、結局分子が壁に及ぼす力 \(F_x\) は

式(11)

\[ F_x = \frac{Nm\bar{v^2_x}}{V} S \]

で与えられることが分かります。

ここまでの議論を \(y\) 方向および \(z\) 方向に対しても行うことで

式(12)

\[ \begin{align*} F_y &= \frac{Nm\bar{v^2_y}}{V} S \\[15pt] F_z &= \frac{Nm\bar{v^2_z}}{V} S \end{align*} \]

が得られます。

\(x\), \(y\), \(z\) 方向の力 \(F_x\), \(F_y\), \(F_z\) はそれぞれ等しい値 \(F\) とならなければ、容器は静止を保てず動いてしまうでしょう。

このことから

式(13)

\[ \begin{align*} \text{eq(13.1) : } ~~~~~ &F_x = F_y = F_z ~~~ (~ \equiv F ~)\\[15pt] \text{eq(13.2) : } ~~~~~ &\Leftrightarrow ~ \frac{Nm\bar{v^2_x}}{V} S = \frac{Nm\bar{v^2_y}}{V} S = \frac{Nm\bar{v^2_z}}{V} S \\[20pt] \text{eq(13.3) : } ~~~~~ &\therefore ~ \bar{v^2_x} = \bar{v^2_y} = \bar{v^2_z} \end{align*} \]

と言ったように、各方向の平均二乗速度が等しい関係を得ることができます。

これは前述の通り容器内の分子が等方的に運動していることを意味しています。

また速度 \(\boldsymbol{v}\) 自身の内積から二乗速度 \(v^2\) は各成分の二乗和で表され、\(v^2\) の平均は 各速度成分の平均の和として与えられます。

式(14)

\[ \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{v} = v^2 = v^2_x + v^2_y + v^2_z \]

式(15)

\[ \bar{v^2} = \bar{v^2_x} + \bar{v^2_y} + \bar{v^2_z} \]

※式(15)はマクスウェル・ボルツマン分布を用いて導くことが可能です。

そして式(15)に対して、式(13.3)の関係を用いれば次式を得ることができます。

式(16)

\[ \begin{align*} \text{eq(16.1) : } ~~~~~ &\bar{v^2} = 3 \bar{v^2_x} \\[15pt] \text{eq(16.2) : } ~~~~~ &\therefore ~ \bar{v^2_x} = \frac{1}{3}\bar{v^2} \end{align*} \]

そして式(11)と式(16.2)から、容器が分子から受ける力 \(F\) を求めることができます。

式(17)

\[ F = \frac{Nm\bar{v^2}}{3V}S \]

気体の圧力 \(P\) は式(17)を両辺 \(S\) で割った

式(18)

\[ P = \frac{Nm\bar{v^2}}{3V} \]

で与えられます。

分子のエネルギー

気体分子運動論から導かれた式(18)を用いて、分子1個あたりの平均エネルギーを求めることができます。

古典力学の結果によると質点の運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv^2\) で与えられます。

式(18)から、圧力は分子の質量と速度の二乗に比例することから、分子の運動エネルギーを用いて次のように書き換えることができます。

式(19)

\[ \frac{3}{2} PV = N \cdot \frac{1}{2} m\bar{v^2} \]

更に気体が理想的に振る舞うとして状態方程式 \(PV = nRT\) を適用すると

式(20)

\[ \frac{3}{2} nRT = N \cdot \frac{1}{2} m\bar{v^2} \]

アボガドロ定数 \(N_\text{A} \left(~ = \frac{N}{n} ~ \right)\) を用いれば

式(21)

\[ \frac{3}{2} RT = N_\text{A} \cdot \frac{1}{2} m\bar{v^2} \]

となります。

式(21)について特筆すべきは、分子の運動エネルギーが系の温度のみによって決まることです。

気体の組成や、質量、形状などに依存しないというのは非常に興味深い点です。

また1分子が持つ平均エネルギーも直ちに次の関係で与えられることが分かります。

式(22)

\[ \frac{1}{2} m\bar{v^2} = \frac{3}{2} \frac{R}{N_\text{A}}T \]

また \(\frac{R}{N_\text{A}}\) は1分子あたりの気体定数という意味を持ちますが、改めてボルツマン定数 \(k_\text{B}\) として定義します。

式(23)

\[ k_\text{B} \equiv \frac{R}{N_\text{A}} \]

任意の形状の容器に入った気体の圧力

※以下編集中です。

立方体の容器について分子論的に気体の圧力を導出しましたが、一般に前述の内容が任意の形状の容器でも成立することを確認してみます。 衝突する微小面積と垂直な方向に働く力 \(dF_i\) [[]] \[ \boldsymbol{F} \Delta t = m \Delta \boldsymbol{v} \] 任意の閉曲面について微小面積 \(s\) に加わる力 \(\boldsymbol{f}\) を考える その力の向きは微小面積に対して垂直で、法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) を用いれば次のように記述できる [[]] \[ (\boldsymbol{f} \cdot \boldsymbol{n}) \boldsymbol{n} \Delta t = m (\boldsymbol{v} - \boldsymbol{v}') \] [[]] \[ \begin{align*} (\boldsymbol{f} \cdot \boldsymbol{n}) \Delta t &= m (\boldsymbol{v} - \boldsymbol{v}') \cdot \boldsymbol{n} \\[15pt] &= m \big\{ (\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}) - (\boldsymbol{v}' \cdot \boldsymbol{n}) \big\} \\[15pt] &= 2m (\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}) \end{align*} \] 速度ベクトルと法線ベクトルの内積は、速度ベクトル \(\boldsymbol{v}\) をもつ粒子が衝突する微小面積の垂直方向成分です 以降は \(v_\perp\) と表すことにする [[]] \[ f_\perp \Delta t = 2m v_\perp \] 立方体の容器で考えたように、\(\Delta t\) で壁に衝突する粒子は速度の違いに依存して複数種ある [[]] \[ f^{(i)}_\perp \Delta t = 2m v^{(i)}_\perp \] 時間 \(\Delta t\) 内に微小面積 \(s\) に衝突する粒子の数を計算する 時間を小さく取ることによって \(s ~ v^{(i)}_\perp \Delta t\) の空間内に存在する粒子として表すことができる [[]] \[ n^{(i)} = \nu^{(i)} s v^{(i)}_\perp \Delta t \] [[]] \[ f^{(i)}_\perp \Delta t \cdot n^{(i)} = 2m v^{(i)}_\perp \cdot \nu^{(i)} s v^{(i)}_\perp \Delta t \] [[]] \[ n^{(i)} f^{(i)}_\perp = 2m \nu^{(i)} {v^{(i)}_\perp}^2 s \] 両辺和を取って [[]] \[ \sum_{i = 1}^r n^{(i)} f^{(i)}_\perp = 2m \sum_{i = 1}^r \nu^{(i)} {v^{(i)}_\perp}^2 s \] 全体が均一だと仮定して [[]] \[ \nu^{(i)} = \frac{N^{(i)}}{V} \] [[]] \[ \sum_{i = 1}^r n^{(i)} f^{(i)}_\perp = \frac{2m}{V} \sum_{i = 1}^r N^{(i)} {v^{(i)}_\perp}^2 s \] 2乗平均速度は [[]] \[ \bar{v^2_\perp} = \frac{\sum_{i = 1}^r N^{(i)} {v^{(i)}_\perp}^2}{\sum_{i = 1}^r N^{(i)}} \] [[]] \[ \sum_{i = 1}^r n^{(i)} f^{(i)}_\perp = \frac{2m}{V} \sum_{i = 1}^r N^{(i)} \bar{v^2_\perp} s \] [[]] \[ F_\perp = \frac{Nm\bar{v^2_\perp}}{V} s \] これが各微小面について成立するので [[]] \[ F^{(j)}_\perp = \frac{Nm\bar{v^2_\perp}}{V} s^{(j)} \] として \(j\) に対して総和を計算すれば [[]] \[ \begin{gather*} \sum_{j} F^{(j)}_\perp = \frac{Nm\bar{v^2_\perp}}{V} \sum_{j} s^{(j)} \\[15pt] F = \frac{Nm\bar{v^2_\perp}}{V} S \\[15pt] \therefore ~ P = \frac{Nm\bar{v^2_\perp}}{V} \end{gather*} \]

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今年で物理化学歴11年目になります。

大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。