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ボイルの法則
気体の圧力と体積は反比例関係にある

気体の圧力と体積は反比例する関係を表すボイルの法則を紹介します。

特になぜ反比例の関係にあるのかを理解することは重要で、それを当ページでは実験的な手法を用いて確認してきます。

圧力と体積の関係 : ボイルの法則

ボイルの法則とは、気体の圧力と体積の間で成り立つ法則で、圧力を \(P\)、体積を \(V\) としたとき次式のような反比例の関係が成り立ちます。

式(1)

\[ PV = \text{Const.} \]

気体の体積が大きいとき圧力は小さくなり、逆に体積が小さいとき圧力は大きくなります。

ただしボイルの法則は一定量の気体に対して、かつ気体の温度も変化しない場合でしか適用できないことに注意する必要があります。

容器内の気体の圧力

私達は気体を扱う際、容器に封入した状況を想定するのが一般的です。

容器に封入された気体

気体は容器から逃げ出さないように蓋をして密閉しておきます。

またこの蓋は上下に動かすことができ、容器の容積を自由に変えられるようになっています。

もし蓋を自然な状態から押さえつければ、逆向きに帰ってくるような手応えを感じ取ることでしょう。

この手応えは圧力 \(p\) として定量的に扱います。

式(2)

\[ p = \frac{f}{S} \]

圧力は蓋を介して気体に加える力 \(f ~ [\text{N}]\) を蓋の面積 \(S ~ [\text{m}^2]\) で割った量として定義されます。

圧力の次元は \([\text{N/m}^2]\) でこれを特別に \([\text{Pa}]\) と表すのでした。

気体は質点とは異なり広がりを持つため、力として扱うよりも面に加わる圧力で見たほうが扱いが容易になります。

圧力と体積の反比例関係を実験的に示す方法

冒頭で既に述べていますが、気体は温度一定の条件下でボイルの法則に従います。

このとき気体の体積が大きいほど圧力は小さく、体積が小さいほど圧力が大きくなります。

これはボイルの法則が主張するように、気体の圧力と体積は反比例の関係にあるためです。

式(1)

\[ PV = \text{Const.} \]

この関係は理論的に導くことも可能ですが、当ページでは範囲外の内容である気体分子運動論を持ち出す必要があるため説明は割愛します。

当ページではこのボイルの法則を実験的に説明する方法を示します。

データを直線上に乗せる

ある2つの指標 \(x\)、\(y\) について考えるとき、それぞれが比例関係になっていると非常に分かりやすいです。

横軸に \(x\)、縦軸に \(y\) をとった座標上にデータ点を取れば、それらは一直線状に並びます。

このとき定数 \(k_1\)、\(k_2\) を用いて \(y = k_1 x + k_2\) という関係式によって表すことができます。

とは言え、目的であるボイルの法則は反比例関係にあって、データ点も直線上に乗せることはできないように思えます。

しかし軸を工夫して選択することで、データを直線状に並べることができるのです。

いま気体の圧力と体積の積が一定値 \(C\) をとるとして、ボイルの法則を次のように書き換えます。

式(3)

\[ V^{-1} = C^{-1} P \]

式(3)は気体の圧力 \(P\) が、体積の逆数 \(V^{-1}\) と比例関係にあると見ることができますよね!

つまり \(P\) と \(V^{-1}\) をとった座標上にデータ点を並べれば、それらはちょうど一直線上に乗るはずです。

次のグラフを見ていただきましょう。

圧力と体積の関係
圧力と体積の逆数の関係

これは気体に加えた圧力 \(p\) と対する気体の体積 \(V\) の測定データをグラフに表したものです。

また図中にある赤色の破線は、データ点に最もよく合う1次直線です。

これらを比較すると、\(p\) - \(V\) 図では、データ点が1次直線からズレていますが、\(p\) - \(V^{-1}\) 図では見事にデータを説明する1つの直線を引くことができています。

この直線は定数 \(k_1\)、\(k_2\) を用いて次式で表すことができます。

式(4)

\[ V^{-1} = k_1 p + k_2 ~~~ (~ k_1 > 0 ~) \]

このことから気体に加えた圧力 \(p\) と気体の体積 \(V\) は反比例の関係にあると言うことができます。

式(4)は気体の圧力 \(P\) についての式ではないことに注意です。

次節で式(4)に補正を行い、ボイルの法則にまで導いていきます。

ボイルの法則を導く

前節では式(4)で示すように、気体に加えた圧力 \(p\) と気体の体積 \(V\) との間に反比例関係があることを見出すことができました。

しかしながらボイルの法則は、気体の圧力 \(P\) と気体の体積 \(V\) の関係を表したものです。

これらの圧力の違いは、容器の外から掛かる圧力を考慮しているか否かです。その圧力は大気圧と呼ばれ \(P_0\) で表現されます。

すなわち数学的には \(P = p + P_0\) という関係になっているわけです。

このことを念頭においた上で、式(4)に含まれる定数 \(k_1\)、\(k_2\) を具体的に決定していけばボイルの法則 \(PV = \text{Const.}\) を得ることができます。

定数 \(k_1\)、\(k_2\) を具体的に決定するには、条件が必要になります。

そのために次の2つの状況を考えて見ることにしましょう。

  • 初期状態 : このとき気体の体積は \(V_0\) とする
  • 気体の体積が \(\infty\) に大きい状態

定数 \(k_2\) の決定

まずは初期状態について式(4)がどうなるか考えます。

ここで初期状態とは、容器に蓋をして気体を封入した状態を意味します。

つまり私達が容器に対して外から何らかの力を加えていない自然な状態ということです。

すると気体に加えた圧力を表す \(p\) は 0 となるので、このときの気体の体積が \(V_0\) であることに注意すると

式(5)

\[ V_0^{-1} = k_1 \cdot 0 + k_2 \\[15pt] \therefore ~ k_2 = V_0^{-1} \]

といった具合に定数 \(k_2\) を決めることができます。

定数 \(k_1\) の決定

では続いて、気体の体積 \(V\) を \(\infty\) にした状況を考えます。

念の為ですが、気体の体積は大きくなりますが容器に含まれる気体の量は変化していません。

このとき私達は蓋を引っ張る必要があります。

注射器の口をふさいでピストンを引っ張る実験をしたことがあるかもしれません。引っ張るのに意外と結構な力が必要なものなんです。

では今考えている状況ではどれぐらいの圧力で引っ張るかというと、体積を \(\infty\) にまで目一杯広げるためには大気圧を破る必要があるので \(p \rightarrow - P_0\) となります。

\(p\) が負の値になるのは、容器に全く手を加えていない自然な状態を \(p = 0\)、気体を圧縮するために蓋を押さえつけるときを \(p > 0\) としているためです。

したがって、以上を式(4)に適用すると \(k_1\) が得られます。

式(6)

\[ 0 = - k_1 P_0 + k_2 = -k_1 P_0 + V_0^{-1} \\[15pt] \therefore ~ k_1 = \frac{1}{P_0 V_0} \]

定数 \(k_1\) および \(k_2\) の具体的な表現が決まったので、再度式(4)に代入し直して整理していきます。

式(7)

\[ \begin{align*} \frac{1}{V} &= \frac{p}{P_0 V_0} + \frac{1}{V_0} \\[15pt] \frac{V_0}{V} &= \frac{p + P_0}{P_0} = \frac{P}{P_0} ~~~ ( ~ P = p + P_0 ~ ) \\[30pt] \therefore &~ PV = P_0 V_0 \end{align*} \]

\(P_0\) も \(V_0\) も定数なので、それらの積も定数です。

こうしてボイルの法則を得ることができました。

次に示す図は、グラフの軸を \(p\) から \(P\) に置き換えたものです。

体積の逆数と全圧の関係

先に示したグラフと見比べると、軸を \(P\) にとった場合は直線がしっかり原点を通っています。

当然、\(P\) - \(V\) 図として見てもデータ点は曲線上に乗ります。

体積と全圧の関係

ここで強調しておきたいのは、ボイルの法則では気体の圧力 \(P\) と体積 \(V\) が非常に簡単な関係によって結ばれていることです。

どういうことかと言うと、もしかしたら \(PV^2 = \text{Const.}\) のような関係になっても別に違和感はありませんよね。

これは測定したデータ点を \(P\) - \(V^{-1}\) グラフ上に取ったとき一直線上に並べることができたからこその結果なのです。

上記ではボイルの法則を何らかの理論に基づいて導いたのではなく、実験結果から適切な関係を示しました。

実験から何らかの物理法則を説明する上では、データの整理の仕方がキモとなるわけです。

おまけ : 大気圧について

ボイルの法則の関係を導くにあたって、大気圧の存在を考えてきました。

その大気圧がどのくらいの大きさであるのか、式(6)を用いることによって計算できます。

私達は大気中から検査対象としてほんの少しの空気を容器に封入し、ある圧力の範囲内で気体の体積を変化させる実験を行いました。

そこから気体の圧力と体積には反比例する関係を見出すことができただけではなく、大気圧というもっと大きな規模にまで拡張することができるのです。

大気圧はたった数個の測定データによって得られたグラフの傾き \(k_1\) と、初期状態における気体の体積 \(V_0\) だけで決定できます。

実際大気圧として知られているのは次の数値です。

\[ P_0 = 1.01325 \times 10^{5} [\text{Pa}] \]

\(p\) - (V^{-1}) グラフで確認すると、大気圧はデータ点の回帰直線を延長した先にある横軸との交点を指します。

グラフの外挿から大気圧を得る方法

まとめ

容器に封入された気体について、温度が一定のとき気体の圧力と体積の間には反比例の関係が成立します。

\[ PV = \text{Const.} \]

これをボイルの法則と言います。

【サイト運営 : だいご】

今年で物理化学歴11年目になります。

大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。