■目次■
逆関数
逆関数とは
ある区間 \(a \leq x \leq b\) において定義される関数 \(y = f(x)\) を考えましょう。
もし \(f(a) < f(b) ~ (a \mathrel{\char`≠} b)\) が成立するとき、\(y = f(x)\) は単調増加であると言います。
言葉では分かりづらいのでグラフを用意しました。
単調増加する関数とはグラフが常に右肩上がりの概形をとっています。
逆に、単調減少する関数も同様にして考えることができ、こちらは常に右肩下がりなグラフとなるのですね。
このような単調増加および単調減少する関数を以降はまとめて単調関数と言うことにしましょう。
そして単調関数には重要な特徴があって、常に \(x\) と \(f(x)\) が返す値、すなわち \(y\) が1対1に対応していることです。
直前の図中に示してある矢印はその内容を意味しています。
また、ある \(x\) に対して \(y\) が1つに定まるような対応関係を形式張って次のように表現することにしましょう。
対応関係(1)\[ x \xrightarrow{~~~ f ~~~} y \]
※👆 \(y = f(x)\) の仰々しい書き方? より詳しく知りたい場合は「写像」で検索しましょう。また「1つに定まる」ということを強調していますが、これは関数であることを暗に示しています。関数とは、代入する値に対して(普通)1つの値を返すものを言います。実際は「多価関数」という2つ以上の値を返す関数もありますが、基本扱うことはありません。
一方 \(y = x^2\) のような関数は単調関数ではなく、その証拠に \(x\) が \(a\) あるいは \(-a\) のどちらでも関数が返す値は \(a^2\) となるように、ある一つの \(y\) に対応する \(x\) が2つ存在してしまっているのです。
ただし、関数 \(y = x^2\) も返される値 \(y\) は1つに定まるため、対応関係(1)と同じ表現が可能であることには注意してください。
では、ここまでで見てきた \(x\) と \(y\) が1対1に対応しているか否かで、一体何が異なるのかを以下で見ていきます。
その内容を理解するために、先程で示してきた単調関数とそうでない関数について、それぞれの図中にある矢印の向きを真逆にとってみることを行いたいと思います。
以下に結果を示しましょう。
するとどうでしょうか、上図(A)の場合では \(y\) に対して \(x\) が1つ定まるのに対して、(B)の場合 \(y\) に対して \(x\) が2つ定まることが分かります。
つまり、(A)の矢印の向きで示されるような対応関係(1)とは逆の対応関係も記述可能であることになります。
対応関係(2)\[ y \xrightarrow{~~ f^{-1} ~~} x \]
このとき \(f\) の対応とは逆の関係を意味する \(f^{-1}\) という表記がよく利用されるため、当サイトでも採用することにしましょう。
また対応関係(2)を改めて式で表現するなら次のように書けることになります。
式(1)\[ x = f^{-1}(y) \]
他方、(B)の2つの値を与える関係ですが、こちらは関数ではありませんので私達は扱うことはありません( 先述の注のとおり多価関数ではある… )。
話を戻しますが、対応関係(1)および対応関係(2)はそれぞれ共役な関係にあるため、つぎのようにまとめて表現することも可能です。
対応関係(3)\[ x ~~~ \begin{align*} \xrightarrow{~~ f ~~} \\[-8pt] \xleftarrow[f^{-1}]{} \end{align*} ~~~ y \]
再度、図式的にも \(y = f(x)\) と \(x = f^{-1}(y)\) の関係を示しておきましょう。
ここまでで、\(f\) の対応関係とは逆の \(f^{-1}\) を得たわけですが、式(1)の表式はどことなく違和感を覚えます。
もちろん数学的には間違いではないのですが、実際問題として私達が普段関数を扱う際、慣習的に \(x\) は変数として、\(y\) は関数が返す値として理解することが多いために生じてしまう感覚ではないでしょうか(少なくとも筆者は混乱する)。
そこで式(1)の \(x\) と \(y\) を入れ替えた次式を考えてみることにします。
式(2)\[ y = f^{-1}(x) \]
図形的には何が起きているかというと、縦軸と横軸の名称がそれぞれ \(x\) と \(y\) に変わることになるだけです。
更に通常グラフを描くときは、横軸に \(x\)、縦軸に \(y\) を持ってくることが多いので、これに合わせるには原点を通る45度の斜線( \(y = x\) )を軸としてグラフおよび座標全体を半回転させるといいでしょう。
その結果が次の図になります。
図中右下の破曲線が半回転前の関数 \(f(x)\) であり、実線で描かれたグラフ、こちらが \(f(x)\) の逆関数である \(y = f^{-1}(x)\) になります。
そして一般に逆関数は、もとの関数とちょうど \(y = x\) に対して線対称なグラフになっていることが特徴です。
\(f\) と \(f^{-1}\) の関係
\(f\) で表現される \(x\) と \(y\) の間の関係について、その逆が定義できるとき \(f^{-1}\) と表現することは先述のとおりです。
ところで「−1乗」と表現すると逆数をイメージしますが、それで問題ないでしょう。
逆数の掛け算を例にすれば、ある数 \(n\) に \(k\) を掛けると \(kn\) になりますが、その後 \(kn\) に \(k^{-1} = \frac{1}{k}\) を掛ければ \(n\) となって元通りになります。
この逆数のイメージを念頭においていただいた上で、\(f\) と \(f^{-1}\) の間にある関係式を導いていきます。
早速ですが、関数 \(y = f(x)\) に式(1) \(x = f^{-1}(y)\) を代入してみましょう。
式(3)\[ y = f \left( f^{-1}(y) \right) \]
ここで右辺に現れるのは合成関数で、\(y\) に対して \(f^{-1}\) を作用させた後、続けて \(f\) を作用させると読むことができるのでした。
※合成関数に関しては別のコンテンツを用意しています。
しかしその右辺の計算結果は左辺にある通り \(y\) だというので、要するに右辺で \(y\) に行われた操作は、総合して考えると元通り \(y\) に戻る、あるいは何の操作も施していないということになるわけです。
これが逆数のイメージと同じだと言った所以になります。
ちなみに式(3)の結果では \(f^{-1}\) に対して \(f\) を施したときの内容ですが、逆に \(f\) に対して \(f^{-1}\) を施したときも同じ結果が得られます。
それには式(1)に \(y = f(x)\) を代入して \(y\) を消去すればよく、次の結果が得られます。
式(4)\[ x = f^{-1}\left(f(x)\right) \]
ただし勘違いしないでほしいのは、式(3)および式(4)に現れる \(y\) と \(x\) には意味はないということ。
式(3)は \(y\) に関する式、式(4)は \(x\) に関する式ということではなく、ここで伝えたいことは \(f\) と \(f^{-1}\) の関係についてのみです。
別に式(3)の \(y\)( あるいは式(4)の \(x\) )を別の文字 \(u\) などに置き換えてもらっても全然構いません。
だから式(3)の \(y\) を \(x\) に置き換えて、次の様に記述したとしても全く問題ないのです。
式(5)\[ x = f\left(f^{-1}(x)\right) \]
逆関数を代数的に求めるには
前節で導いた \(f\) と \(f^{-1}\) の関係は、対応関係(3)を見ていただいても明白だったのですが、式(3),(4),(5)を得ること自体に意味がありました。
これらの関係を利用すれば逆関数 ( 式(2) \(y = f^{-1}(x)\) ) を代数的に導く手続きを理解することができます。
というのも、先程のグラフを用いた逆関数の説明では、定性的に逆関数がどのようなものかを理解することは可能でしょうが、重要なのは定量性でありコレについての言及は一切していません。
実際に逆関数が具体的にどのように計算して導かれるのかを知る必要があるのです。
そのために必要な手順はたったの2ステップで、以下に示すとおりです。
- 考える関数 \(y = f(x)\) に対して、\(x\) と \(y\) を入れ替える
- 両辺に \(f^{-1}\) を作用させる
この手順に従えば、一般に逆関数を得ることが可能です。
まずは与えられた関数 \(y = f(x)\) に関して、\(x\) と \(y\) を置換しましょう。
式(6)\[ x = f(y) \]
次に両辺に \(f^{-1}\) を作用させれば良いということなので、次のように計算が進みます。
\[ \begin{align*} & x = f(y) \\[10pt] \xrightarrow{f^{-1}} ~ & f^{-1}(x) = f^{-1}\left(f(y)\right) \\[15pt] \Rightarrow ~ & f^{-1}(x) = y \end{align*} \]
以上のようにして、式(2)を得ることができましたね。
ただ、2つ目の手順とは一体何を意味しているのかをもう少し明らかにする必要がありそうです。
しかし難しく考える必要はなく、単に式(6)で現れる「 \(x = \) 」の表式を「 \(y = \) 」の表式に変形する、すなわち \(y\) について解くことを表しているに過ぎません。
こちらの内容は次の節で具体的な例を取り上げて説明することにしましょう。
逆関数を求める具体例
先程までに扱っていた単調関数は、実は \(y = \sqrt{x}\) で表されるものです。
早速、逆関数を求める作業に取り掛かりますが、まずは \(x\) と \(y\) を置き換えるのでした。
\[ x = \sqrt{y} \]
ここから \(y\) について解けばいいので、両辺を2乗して根号を外します。
\[ \begin{align*} x^2 = y \end{align*} \]
結果として逆関数 \(y = x^2\) を得ることができました。
先程グラフで示した逆関数(実線)が \(y = x^2\) となっていることを確認してみてください。
しかしここで気づいていただきたいことがあって、先述の内容では \(y = x^2\) を非単調関数の例として上げていて逆関数が定義できなかったハズですね。
ところが上記の計算結果は \(y = x^2\) の逆関数が \(y = \sqrt{x}\) であることも同時に言っていることになります。
実は絶対に忘れてはならない条件に触れていなかったために、この様になってしまいました。
そもそも元の関数 \(y = \sqrt{x}\) は根号内非負 \(x \geq 0\) の定義域が課されることを思い出しましょう。
このときの元の関数の値域は \(y \geq 0\) となりますね。
つまり逆関数を求める際、この条件を保持して考える必要があるわけです。
以上のことを考慮すれば、真の逆関数は次にように表現されることになります。
\[ y = x^2 ~ (~ x \geq 0 ~) \]
以上、前置きが長すぎましたが、次の節から本題である逆関数の微分に触れて行くことになります。
逆関数の微分
逆関数の導関数は、元の関数 \(y = f(x)\) から逆関数を求めて \(x\) で微分することによって求めることが可能です。
しかし、場合によって計算が複雑になることもあり、以下で説明する微分公式を利用した方が簡潔に求められることもあります。
まずは結論となる公式だけを示しておくことにしましょう。
式(7)\[ \frac{df^{-1}(x)}{dx} = \frac{dy}{dx} = \frac{1}{~ \frac{dx}{dy} ~} \]
逆関数 \(y = f^{-1}(x)\) を \(x\) で微分することが目的なので、式(7)の左辺と中央の関係は言わずとも理解できるはずです。
重要なのは中央と右辺の関係であり、これはまるで微分記号を分数とみなして、分母分子それぞれを \(dy\) で割っているかのような表式になっています。
一見すると非常にシンプルな関係式のように見えますが、筆者的にはよく理解していないと計算ミスの素になりかねないので、その内容を含めて以下で解説をしていきます。
微分公式の誘導
早速公式の誘導に入りますが、始まりは式(4) \(x = f(y)\) を両辺 \(x\) で微分するところからです。
\[ \begin{align*} \text{eq(4) : } & x = f(y) \\[10pt] \xrightarrow{~~~ d/dx ~~~} ~ & \frac{d}{dx}x = \frac{d}{dx} f(y) \\[10pt] \Rightarrow ~ & 1 = \frac{df(y)}{dx} \end{align*} \]
このような関係式が得られるわけですが、ここで合成関数の微分公式 \(\frac{df(x)}{dt} = \frac{df(x)}{dx} \cdot \frac{dg(t)}{dt}\) を利用すれば次のように書き換えることができます。
\[ 1 = \frac{df(y)}{dx} = \frac{df(y)}{dy} \cdot \textcolor{red}{\frac{dy}{dx}} \]
目的の \(\frac{dy}{dx}\) が表に出てきました。
一方で \(\frac{df(y)}{dy}\) は式(4)から \(\frac{dx}{dy}\) と表現することも可能であることが分かるので、更に次のように表記を変えることができます。
\[ 1 = \frac{dx}{dy} \cdot \frac{dy}{dx} \]
最後に、もし \(\frac{dx}{dy}\) が0でなければ、両辺を \(\frac{dx}{dy}\) で割ることができるので、その結果初めに示した式(7)を得ることができるわけです。
式(7)\[ \left(\frac{df^{-1}(x)}{dx} = \right) \frac{dy}{dx} = \frac{1}{ ~ \frac{dx}{dy} ~ } \]
数学的にはこれが一番キレイで落ち着いているのでしょうが、実際に利用する際に少し混乱してしまうのではないかと懸念しています。
筆者個人の意見では \(y = f^{-1}(x)\) および \(x = f(y)\) で置き換えた次の表式で理解することをオススメします。
式(8)\[ \frac{df^{-1}(x)}{dx} = \frac{1}{~ \frac{df(y)}{dy} ~} \]
そして、式(8)を見てみると左辺は \(x\) の関数、右辺は \(y\) の関数となっています。
導関数は \(x\) の関数として得たいので右辺の \(y\) は \(y = f^{-1}(x)\) で消去します。
したがって次の式が得られます。
式(9)\[ \frac{df^{-1}(x)}{dx} = \frac{1}{~ \frac{df\left(f^{-1}(x)\right)}{dy} ~} \]
ここで代入するのは \(y = f(x)\) などではないことに注意してください。
式(7)を始め式(10)までの関係式は逆関数 \(y = f^{-1}(x) ~ (~ \Leftrightarrow x = f(y)~)\) を基にして導かれています。
\(y = f(x)\) はたしかに逆関数とは共役な関係にはあるものの、全く別のものであることを理解しなければなりません。
以上、逆関数の微分公式を導いてきましたが、再度念を押しておくと理解していただきたいのは式(8)の表式で、かつその後 \(y = f^{-1}(x)\) で \(y\) を消去するという一連の流れです。
上記の流れを一旦叩き込んでいただければ、次に示す具体例も簡単に理解できることでしょう。
逆関数の導関数を求める具体例
それでは、先に示した公式(7)を利用して具体的な逆関数の導関数を求めてみましょう。
今度は先程の例とは逆に \(y = f(x) = x^2 ~ (~ x \geq 0 ~)\) が与えられたとして、\(f(x)\) の逆関数の導関数を求めてみましょう。
以下では、逆関数の微分公式の正しさの確認を兼ねて、2通りの計算方式で逆関数の導関数を得ることを行います。
- 求めた逆関数を微分する
- 逆関数の微分公式(7)を利用する
【1】求めた逆関数を微分する
まず、逆関数をそのまま微分する方法で導関数を求めてみます。
この関数の逆関数は \(y = f^{-1}(x) = \sqrt{x}\) であることは、先程の例からもお分かりのとおりかと思われます。
無理関数の微分は愚直に計算を行うことも可能で、実際に実行すると次のような計算結果となります。
\[ \begin{align*} \frac{df^{-1}(x)}{dx} &= \frac{d}{dx} \sqrt{x} \\[10pt] &= \frac{d}{dx} x^{\frac{1}{2}} \\[10pt] &= \frac{1}{2} x^{-\frac{1}{2}} \\[10pt] &= \frac{1}{2 \sqrt{x}} \end{align*} \]
【2】逆関数の微分公式(7)を利用する
続いて、逆関数の微分公式(7)を利用しても上記の結果と同じ導関数が得られるか確認してみたいと思います。
用いる公式は式(8)の表式でした。
\[ \frac{df^{-1}(x)}{dx} = \frac{1}{~ \frac{df(y)}{dy} ~} \]
ここで \(f(y)\) とは元になる関数 \(f(x) = x^2\) の \(x\) に \(y\) を代入したものと考えることもでき、すなわち \(f(y) = y^2\) と見れば良いです。
これに従って上記の計算を進めていくと次のようになります。
\[ \begin{align*} \frac{1}{~ \frac{df(y)}{dy} ~} &= \frac{1}{~ \frac{d}{dy}y^2 ~} \\[10pt] &= \frac{1}{2y} \end{align*} \]
そして、最後に式(9)で示したように逆関数 \(y = f^{-1}(x) = \sqrt{x}\) を用いて \(y\) を消去すればいいので、
\[ \frac{df^{-1}(x)}{dx} = \frac{1}{~ \frac{df(y)}{dy} ~} = \frac{1}{2\sqrt{x}} \]
となって、先ほど得た計算結果と同じになることが示されるということになります。