関数 \(f(x) = x\) や \(\sin x\) の微分は、それぞれ \(1\), \(\cos x\) と言ったようにすぐさま計算できることでしょう。
ところが、一般に与えられる関数とはこのような単純なものばかりではなく、例えばこれらの積や商などであることが多いです。
\[ \begin{align*} & x \sin x , &&\frac{\sin x}{x} \end{align*} \]
このような関数を微分する際とどういった結果が得られるか、初めに答えを示しておくと次のようになります。
\[ \begin{align*} \frac{d}{dx} \left( x \sin x \right) = \sin x + x \cos x \\[15pt] \frac{d}{dx} \frac{\sin x}{x} = \frac{\cos x}{x} - \frac{\sin x}{x^2} \end{align*} \]
一方、それぞれの関数の微分の積あるいは商で表現できればという淡い期待もありますが、現実にはそうは行かないのです。
誤り\[ \begin{align*} \frac{d}{dx} \left( x \sin x \right) ~ & \char`≠ ~ \frac{d}{dx} x \cdot \frac{d}{dx} \sin x \\[15pt] \frac{d}{dx} \frac{\sin x}{x} ~ & \char`≠ ~ \frac{\frac{d}{dx} \sin x}{\frac{d}{dx} x} \end{align*} \]
筆者は一体どのようにしてこの手の関数の微分を導いたのか以下で解説を行います。
関数の積の微分
公式の導出
積の形式で与えられた関数 \(f(x) g(x)\) に微分法を適用することを考えます。
ただまずはいきなりそのまま考えるのではなく、次のように別の関数として置き直しておきましょう。
式(1)\[ h(x) = f(x) g(x) \]
すると関数 \(h(x)\) の微分は定義によって次のように表されます。
式(2)\[ \frac{dh(x)}{dx} = \lim_{\Delta x \rightarrow 0}\frac{h(x + \Delta x) - h(x)}{\Delta x} \]
関数の引数に注意して、式(1)によって \(h\) を消去すると
式(3)\[ \frac{df(x) g(x)}{dx}= \lim_{\Delta x \rightarrow 0} \frac{f(x + \Delta x) g(x + \Delta x) - f(x) g(x)}{\Delta x} \]
となります。
ここまで式を展開してみたものの次にどのような手に出ればいいでしょうか。
そのヒントは冒頭で示していて、式(3)の右辺は \(\frac{df(x)}{dx} \cdot \frac{dg(x)}{dx}\) とはなってくれないものの、なんらかの形式で \(\frac{df(x)}{dx}\) および \(\frac{dg(x)}{dx}\) を用いて表せないか考えていきます。
冒頭で触れたそれぞれの関数の微分で与えられないか考えてみましょう。
そのためには次に示すように項を補ってあげると見通しが立ちます。
式(4)\[ \frac{df(x) g(x)}{dx} = \lim_{\Delta x \rightarrow 0} \frac{f(x + \Delta x) g(x + \Delta x) \textcolor{red}{- f(x) g(x + \Delta x) + f(x) g(x + \Delta x)} - f(x) g(x)}{\Delta x} \]
式中の赤色で示した項は全体で0となるため、式(3)と同値です。
式(4)の右辺を更に式変形をしていけば、
式(5)\[ \begin{align*} \frac{df(x) g(x)}{dx} &= \lim_{\Delta x \rightarrow 0} \left( \frac{f(x + \Delta x) g(x + \Delta x) - f(x) g(x + \Delta x)}{\Delta x} + \frac{f(x) g(x + \Delta x) - f(x) g(x)}{\Delta x} \right) \\[15pt] &= \lim_{\Delta x \rightarrow 0} \frac{f(x + \Delta x) - f(x)}{\Delta x} \cdot g(x + \Delta x) + \lim_{\Delta x \rightarrow 0} f(x) \cdot \frac{g(x + \Delta x) - g(x)}{\Delta x} \\[15pt] &= \frac{df(x)}{dx} g(x) + f(x) \frac{dg(x)}{dx} \end{align*} \]
となって、\(\frac{df(x)}{dx}\) および \(\frac{dg(x)}{dx}\) を利用した表現を得ることができました。
これを公式として冒頭で説明した関数 \(x \sin x\) や \(\frac{\sin x}{x}\) に適応させてみることにしましょう。
具体例
前項で示した公式(5)を利用して、冒頭で示した関数を例に微分計算を実行してみましょう。
まずは積の形式の関数について、そのまま式(5)を適用すれば次のように計算できるでしょう。
\[ \begin{align*} \frac{d}{dx} \left(x \sin x\right) &= \frac{d}{dx} x \cdot \sin x + x \frac{d}{dx} \sin x \\[15pt] &= \sin x + x \cos x \end{align*} \]
終了です。
続いて商の形式についてですが、こちらは分母を負の累乗に表現し直して計算すると公式(5)が適用しやすくなります。
\[ \begin{align*} \frac{d}{dx} \frac{\sin x}{x} &= \frac{d}{dx} \left( \sin x \cdot x^{-1} \right) \\[15pt] &= \frac{d}{dx} \sin x \cdot x^{-1} + \sin x \frac{d}{dx} x^{-1} \\[15pt] &= \cos x \cdot x^{-1} + \sin x \cdot (-1) x^{-2} \\[15pt] &= \frac{\cos x}{x} - \frac{\sin x}{x^2} \end{align*} \]
これらの計算結果はともに、冒頭で紹介した微分結果と同じであることを確認できます。
この公式は頻繁に利用するので必ず扱えるようになっておく必要があります。
※ところで細かいことなのですが、計算の途中でドット( \(\cdot\) )を利用していたことにお気付きかと思われます。 これには筆者流の理由がありまして、①数式を見やすくする目的と、②微分の計算ミス防止のためです。 微分を表す記号すなわち微分演算子 \(\frac{d}{dx}\) には本来その記号よりも右側にある関数を微分するという意味をもっています。 そのため微分が適用される部分を区別する目的でドットを利用しました。ドット以降の関数は微分適用範囲外であるものとして単純な積を表しています。
複雑な関数の場合
積の微分公式の適用範囲は2つの関数の席の場合だけではありません。
3つの関数の積の場合は次の公式が成立します。
式(6)\[ \frac{d}{dx} f(x) g(x) h(x) = \frac{df(x)}{dx} g(x) h(x) + f(x) \frac{dg(x)}{dx} h(x) + f(x) g(x) \frac{dh(x)}{dx} \]
式(6)は式(5)を利用すれば簡単に求めることが可能です。
どのように適用するかが問題ですが、その答えは \(g(x) h(x)\) を一つの関数 \(F(x)\) と見なすことです。
式(7)\[ \begin{align*} \frac{d}{dx} f(x) g(x) h(x) &= \frac{d}{dx} f(x) F(x) \\[15pt] &= \frac{df(x)}{dx} F(x) + f(x) \frac{dF(x)}{dx} \end{align*} \]
続いて \(F(x)\) を \(g(x) h(x)\) と戻して更に積の微分公式(5)を適用させていきます。
\[ \begin{align*} \frac{df(x)}{dx} F(x) + f(x) \frac{dF(x)}{dx} &= \frac{df(x)}{dx} g(x) h(x) + f(x) \frac{d}{dx} g(x)h(x) \\[20pt] &= \frac{df(x)}{dx} g(x) h(x) + f(x) \left\{ \frac{dg(x)}{dx} h(x) + g(x) \frac{dh(x)}{dx} \right\} \\[20pt] &= \frac{df(x)}{dx} g(x) h(x) + f(x) \frac{dg(x)}{dx} h(x) + f(x) g(x) \frac{dh(x)}{dx} \end{align*} \]
したがって、式(6)が成立することが示されるわけです。