互いに影響を及ぼし合わない、すなわち独立な変数を複数合わせ持った関数を扱うことは多分にあります。
これを多変数関数と言って、数学的には次のように表現されます。
式(1)\[ f(x_1, ~ x_2, ~ \cdots, ~ x_i, ~ \cdots, ~ x_n) ~~~ ( ~ 1 \leq i \leq n ~ ) \]
この関数 \(f\) は \(n\) 個の変数を持つため \(n\) 変数関数と呼ばれます。
変数が複数となった場合の積分法の定義をしていきましょう。
重積分
多変数関数の積分をこれから考えていきますが、簡単のために2変数関数の場合を取り上げることにします。
式(2)\[ z = f(x, ~ y) \]
2変数関数は、3次元空間中に曲面としてグラフを描くことができます。
独立な変数である \(x\) と \(y\) をそれぞれ定めることによってその地点における高さ \(z\) が求まります。
続いて積分計算を実行するにあたって、変数をどこからどこまで動かすのか、すなわち積分区間を定める必要がありました。
※詳細は積分法の基礎で説明しています。
2変数関数 \(f(x, ~ y)\) の場合では変数 \(x\) と \(y\) が動くことのできる領域を設けることになります。
その領域を \(D\) として、以下に模式的に示しました。
これから図では楕円で描いた領域 \(D\) の内部で積分を行っていくのですが、もう少し基本的なところから攻めていきます。
領域 \(D\) の内部をよく見ていただくと、メッシュ状に区分されているのが分かるでしょう。
なぜこのようにしたかというと、1変数関数の積分でも解説をした区分求積法を思い出していただければ結構です。
区分求積法とは、面積を計算するのが困難である複雑な形状をした図形に対して、面積の計算が容易な長方形を上手く配置して敷き詰めることでその図形を再現し、面積を計算する解析手法のことでした。
そしてこの考えを2次元平面に拡張したものが、上図で領域 \(D\) を区画に分けたものなのです。
またここで1変数関数の積分の定義式を以下に示しているので見ていただきましょう。
式(3)\[ \int_a^b f(x) dx = \lim_{n \rightarrow \infty} \sum_{i = 1}^n f(x_i) \Delta x_i \]
先程も述べたとおり、積分は面積を計算することが可能です。
これは式(3)の右辺からも伺えて、底辺 \(\Delta x_i\) と高さ \(f(x_i)\) の積、すなわち面積が \(f(x_i) \Delta x_i\) の長方形の和を計算しているのです。
いまこれを2変数関数に拡張しようとしている訳ですが、今度はもう一軸分の情報が増えるので、体積が求まることになります。
先程メッシュで区分した領域 \(D\) について、座標 (\(x_i, ~ y_i\)) を含む区画の横幅を \(\Delta x_i\)、縦幅を \(\Delta y_i\) とすれば、面積は \(\Delta x_i \Delta y_i\) と表すことができます。
そして式(3)に倣って、次のような和を考えてみることにしましょう。
式(4)\[ \sum_{i = 1}^n f(x_i, ~ y_i) \Delta x_i \Delta y_i \]
これは、底面積 \(\Delta x_i \Delta y_i\)、高さが \(f(x_i, ~ y_i)\) の四角柱を \(n\) 個考えている事を表すと言えます。
模式的に表したものが以下の図です。
非常にデコボコとしていますが、これはメッシュ状に分けた領域 \(D\) の1区画があまりにも大きいために生じてしまう問題です。
式(3)同様にして区画を狭くする、つまり四角柱を細かくとり本数を増やしていけば、きれいな曲面を表現できるようになっていきます。
このように曲面 \(f(x, ~ y)\) と \(xy\) 平面に挟まれた空間に見いだされる立体図形を上手く四角柱で表現されることが分かるでしょう。
更に極限の概念を利用して四角柱の幅を限りなく狭くとれば、正確な体積を計算することができるようになります。
式(5)\[ \lim_{n \rightarrow \infty} \sum_{i = 1}^n f(x_i, ~ y_i) \Delta x_i \Delta y_i \]
式(5)の計算によって得られる数値を積分値と呼び、またこれには慣習的に次のような記号が与えられます。
式(6)\[ \iint_D f(x, ~ y) dxdy \equiv \lim_{n \rightarrow \infty} \sum_{i = 1}^n f(x_i, ~ y_i) \Delta x_i \Delta y_i \]
2変数関数を \(x\) と \(y\) を変数として積分しているため、\(\int\)(インテグラル)を2つ付与します。
また、積分範囲は領域 \(D\) として与えましたが、表現方法としてはインテグラルの下側に添えておくことが多いです。
これで2変数関数の積分(2重積分)を定義できましたが、変数が増えてもその数分だけ積分すれば3重積分でも4重積分でも計算ができる様になります。
累次積分
前節で定義した2重積分とは、細長い四角柱を多数用意して足し合わせたものであることを示しました。
しかし実際に具体的な関数を重積分する際にはこの手法では少し荷が重すぎる気がしないでしょうか。
そこでもう少し計算を楽にすることができないか考えていくことにします。
そのためには、そもそも体積とはどうやって計算することができるか、再度理解しておく必要があります。
立体は面を積み重ねることで作られる
体積の求め方は、前節でも確認しましたが立体の「底面積」に「高さ」を掛ければよかったのでした。もちろんこれでは計算不能な立体もありますが。
また、立体の「高さ」とは言ったものの、立体の形状によっては「厚み」と表現するのが良いときもあるでしょう。
例えばA4用紙を想像するのが分かりやすいです。用紙は非常に薄っぺらくはありますが、たくさんの枚数を重ねても分厚くならないなんてことはありません。
つまり、実際には用紙は「厚み」があり体積をもつ立体なワケです。
さて、そろそろ本題に入っていきたいところですが、
実は以上の内容は2重積分を計算する際に非常に役に立つイメージになるため長々と説明してきました。
早速ですが、以下に示す図を見ていただきましょう。
これは前節で示した立体図形を \(x\) 軸に対して垂直方向へスライスして板状の立体に分割したものです。見やすさのためにそれぞれの板には間隔を設けています。
先程のA4用紙の話を踏まえると、分割されたそれぞれの板の体積を足していけば最終的に求めたい立体の体積となるわけですが、 次にその肝心の板の体積を数学的に表現する方法を考えましょう。
それぞれの板について、側面の面積を \(S\) 、厚みを \(\Delta x\) とすれば、板の体積はこれらの積 \(S \Delta x\) と表されます。
しかし、よく観察するとそれぞれの板の側面の面積は異なることが見て取れます。
この面積 \(S\) は板が置かれている位置 \(x\) によって変化しているため、 関数 \(S(x)\) として扱うようにすれば、\(x\) に応じた適切な面積を表現することができるようになります。
ここで一度以上の内容をまとめると、側面の面積 \(S(x)\)、厚さ \(\Delta x\) の板を足し合わせていくので
式(7)\[ \sum S(x) \Delta x \]
と表すことができます。
和の記号に \(i = 1\) から \(n\) などと言った詳細な記述を行っていませんが、これは考えられる対象についてすべて足し合わせることを意味する際によく利用されるラフな表現です。
最終的に板の厚さ \(\Delta x\) を無限に薄くする(それに伴って板の枚数は無限に増える)極限操作を行えば、和から積分へ置き換えることになります。
式(8)\[ \int_a^b S(x) dx = \lim_{\Delta x \rightarrow 0} \sum S(x) \Delta x \]
この積分区間 \(a \leq x \leq b\) ですが、これは板が \(x\) 軸方向についてどこからどこまで存在するかを表しています。
以上の内容を踏まえてやっと積分が姿を表しましたが、私達が元々計算の対象としていたのは関数 \(f(x, ~ y)\) であり、\(S(x)\) などではありません。
つまり \(S(x)\) を \(f(x, ~ y)\) を用いて表す必要があるのです。
1変数関数とみなして複数回積分する
積分法の基礎で示したように、複雑な形状をした図形の面積は積分によって表現することが可能です。
そこで、前項の最後で生じた問題である、板の側面の面積は積分によって記述することはできないか考えて見ることにします。
数学的に記述していくために、もう一度 前項で示した模式図 を見てみて下さい。
その図においては、それぞれの板が \(yz\) 平面と平行になっている事が分かるかと思います。
つまり板の側面の面積は、\(z = f(x, ~ y)\) を \(y\) に対して積分すれば求められることが分かるでしょう。
式(9)\[ S(x) = \int_y f(x, ~ y) dy \]
しかしながら、それぞれの板は \(y\) 軸方向に対して長かったり短かったりと一様ではありません。
つまりそれぞれの板に対して \(y\) の積分区間が異なるということになります。
それぞれの板の体積を足し合わせる際に \(x\) を変化させていくことを前項で説明しましたが、\(x\) の変化に伴って \(y\) がとり得る範囲は領域 \(D\) に依存します。
その領域 \(D\) を作る曲線をそれぞれ \(y_1(x)\), \(y_2(x)\) と表すことにしましょう。
もし \(x = c\) を取るとき \(y\) がとり得る値の範囲は \(y_1(c) \leq y \leq y_2(c)\) となります。
これは要するに、\(x = c\) に配置された板の側面の面積を式(9)を用いて求めるにあたって積分区間を \(y_1(c) \leq y \leq y_2(c)\) と定めれば良いことを表していることになります。
数式で表現すれば次式のようになります。
式(10)\[ S(c) = \int_{y_1(c)}^{y_2(c)} f(c, ~ y) dy \]
一般化するには式(10)の \(c\) を \(x\) に置き換えるだけで良いので、
式(11)\[ S(x) = \int_{y_1(x)}^{y_2(x)} f(x, ~ y) dy \]
となります。
したがって \(S(x)\) を \(f(x, ~ y)\) を利用して具体的表式を求めることができましたので、式(11)を式(8)へ代入してみます。
式(12)\[ \int_a^b \left\{ \int_{y_1(x)}^{y_2(x)} f(x, ~ y) dy \right\} dx \]
式(12)には \(\int\) が2つあることが分かりますが、これが前節で示した2重積分の計算結果そのものになります。
式(12)を利用して重積分を計算していく方法を累次積分と呼びます。
累次積分では積分変数の個数に応じて積分を繰り返し行います。
またその際、積分変数以外の変数は定数とみなして積分するようになります。
つまり、積分変数の個数だけ1変数関数の積分を行うという認識で問題ありません。
上記までに扱ってきた、2変数関数の場合では \(x\) 方向に関する積分と \(y\) 方向に関する積分を行います。
まずは、\(x\) を定数として扱い \(y\) に関する1変数関数の積分として計算を実行します。
すると \(x\) だけが残る状態になるので、そのまま \(x\) に関する1変数関数の積分を実行すれば良いのです。
更にこの累次積分は積分順序を入れ替えることもできます。
というのも、立体を薄い板の積み重ねとして考える際に、スライスする方向を \(x\) 方向にとることもできるということです。
これは上述の内容について \(x\) と \(y\) を入れ替えただけなので、詳細は割愛します。
得られる結果のみを示すと次のように記述されることになります。
式(13)\[ \int_{\alpha}^{\beta} \left\{ \int_{x_1(y)}^{x_2(y)} f(x, ~ y) dx \right\} dy \]
ただし、積分順序を入れ替えるためには条件が必要であり、\(f(x, ~ y)\) が領域 \(D\) 内で連続であることが求められます。
しかし逆に連続ではない関数を当サイトでは利用する機会はあまりないので、あまり繊細になりすぎる必要も無いでしょう。
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今年で物理化学歴11年目になります。
大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。