トップページ > 量子化学 > 光の粒子性

光の粒子性

光とは波動であって、周囲に広がりを持ちながら伝播していく現象であることはご存知でしょう。

ところが量子論では光は粒子であるということを学習します。

より正確に言うと、光は粒子と波動の性質をあわせ持つというのですが、非常に混乱を招いてしまいます。

あるときは粒子のように振る舞い、またあるときは波動のように振る舞うというのです。

この二重性を提案したのはアインシュタインで、それ以前は光が粒子であるのか波動であるのかということで科学者たちを翻弄し続けていました。

そして始めて学習する際に戸惑うのが、

  • 波動であると思われ続けていた光が粒子の性質を示すとはどういうことなのか?
  • また、その概念からまた何が新しく分かるのか?

といったところでしょうか…

そこで当コンテンツでは、現代における光の解釈についてまとめています。

ここでは波動的な性質である干渉や回折、重ね合わせの原理ではなく、粒子的な性質によって様々な現象が説明されることを見ていきます。

粒子としての光

光電効果

光電効果とは、金属に光を照射したときに電子が飛び出す現象のことを表します。

このとき飛び出す電子は「光電子」と呼ばれています。

この現象は箔検電器を用いた実験で確認することができます。

箔検電器を帯電させると金属箔は互いに反発して開く様子が想像できるでしょうか。

その後、上部の金属板に紫外線を照射することによって開いていた箔は閉じます。

つまり金属に蓄えられていた電荷は消失していることを表します。

※図を挿入

次に示したのは、光電効果の実験結果です。

  • ■ある振動数 \(\nu_0\) 以下の光を照射した場合■
    • 電子は放出されない
    • 光の強度(明るさ)を大きくしても放出されない

  • ■ある振動数 \(\nu_0\) 以上の光を照射した場合■
    • 光の強度が小さくても、直ちに電子が放出される
    • 光の振動数を大きくするのに伴って、放出される電子の運動エネルギーが大きくなる(ただし光電子数は変わらない)
    • 光の強度に比例して放出される電子の数が増加する(ただし光電子の最大運動エネルギーは光強度に依らない)

※図

※光の強度(明るさ)は振幅のことを指します。光源を増やせば明るくなり、また重ね合わせの原理に従って光の振幅も大きくなります。

実はこれらの実験結果は光が波動であるとすると説明がつかないのです。

一体何が問題であるのか見る前に、実験を上手く説明する「光子」のことから説明することにします。

その後、同時に問題点とそれらをどのように解決するのか確認していきましょう。

光量子仮説

光電効果を説明するにあたって光の波動性からではどうも矛盾が生じてしまうということで、導入された考え方が「光の粒子と波動の二重性」です。

すなわち、この考え方では

光はあるときは波動として、またあるときは粒子として振る舞う

と考えます。

これがタイトルにある光量子仮説というものであり、粒子としての光を「光子」や「光量子」と呼びます。

この仮説はアインシュタインによって提案されましたが、背景にはプランクによって提唱されたエネルギー量子の概念がありました。

プランクの功績によって得られた結果は、物体(黒体)と光(電磁波)とのエネルギーのやりとりはエネルギーの最小単位 \(\epsilon=h\nu\) で行われることです。

アインシュタインが主張する光子とは、このときやり取りされるエネルギーの塊を表しています。

つまり、光子という \(\epsilon=h\nu\) のエネルギーをもつ粒子として考え出したのです。

光電効果の光子による説明

光が波動であるという前提では、光電効果は説明することができません。

それを解決するために、光が粒子としての性質を合わせ持つという光量子仮説が提案されました。

光の波動性ではなぜ光電効果が説明できないのか、そして光量子仮説を導入することによってどのように解決がされたのか確認してみましょう。

【結果1】

ある振動数 \(\nu_0\) 以下の光を照射した場合、電子は放出されず、さらに光強度を強めても電子は放出されない。

■問題点■

一般に波動のエネルギーは \(2\pi^2\rho v A^2\nu^2\) で表されます。

ただし、 \(\rho\) は振動する物体の密度、\(v\) はその体積、\(A\) は振幅、\(\nu\) は振動数を表しています。

※単振動するスプリングのポテンシャルエネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\) から、最大振幅時(\(x = A\))を計算すれば \(2\pi^2\rho v A^2\nu^2\) が得られます。

波動のエネルギーは、振幅 \(A\) もしくは振動数 \(\nu\) に依存することが分かります。

ところが実験結果としては、いくら光の振幅(明るさ)を増幅させたとしても光電子が飛び出すことは無いというのです。

■提案■

光子のエネルギーは、\(\epsilon = h\nu\) で決まり、この式には振幅 \(A\) の情報は一切は入っていません。

つまり光子は振動数(あるいは波長 \(\lambda = \frac{c}{\nu}\))によって異なるエネルギーを持つことになります。

振動数 \(\nu_0\) 以下では光電子を観測できませんが、エネルギーの小さい光子は金属内の電子と衝突しても弾き出すことができないと説明ができそうです。

このように光を粒子として考えると、光強度を強めたとしても光電効果を観測できないことが説明できます。

光強度を強めるというのは光源を増やす事に相当します。

光源を増やせば明るくなり、眩しくなりますよね。

これはエネルギーが溢れ出していることには変わりありませんが、光強度はエネルギーの大きさを表すものではありません。

光の正体を粒子であるとしたので、明るくなればなるほど光子の数が増えていると考えるのがベターなのです。

すると次のようなシナリオが想像できるでしょうか。

いくら光強度が強くなって光子の数が増えたとしても、それぞれの光子のエネルギーが小さければ、電子を弾き飛ばすことはできない。

これと似たような現象は現実世界でも想像に難くないはずで、例えば運動エネルギーが大きい高速のボールをキャッチするのと、低速のボールをキャッチするのとでは手にかかる負担は異なりますよね。

このように光子という概念の導入、および光のエネルギーを \(\epsilon = h\nu\) とすることで、結果1を説明できました。

※ちなみに金属外に飛び出すだけに必要なエネルギーを仕事関数と呼びます。

【結果2】

光の照射によって、直ちに電子が放出される。

■問題点■

問題となる点は、紫外線照射後直ちに光電子が観測される点にあります。

一般に振動している場からエネルギーが与えられる時、その授受は徐々に行われます。

例えば、古典的な例としては共振振り子が挙げられますね。

この装置は、既に運動している振り子と静止している振り子があり、前者の運動周期と共鳴することが可能な振り子が徐々に振れ幅を大きくしていきます。

光電効果の話に戻りますが、つまり予想の範囲では紫外線を照射し続けると徐々に光電子の観測数が増えていくだろう、ということになります。

ところが光電子はすぐさま観察されるというのです。

■提案■

波動は広がりをもって周囲に伝播していく現象のことをいい、一方で粒子はある1箇所に存在できるという特徴があります。

エネルギーの伝達に関して言えば、波動の場合だんだんと進行するのに対し、粒子の場合瞬時に供給されます。

古典物理学で物体の衝突など計算したことがあるでしょうが、まさしくソレです。

つまり光が粒子として振る舞うとするなら、光子が金属内の電子に衝突することで直ちに金属から飛び出すと説明することができます。

【結果3】

光の振動数を大きくするのに伴って、放出される電子の運動エネルギーが大きくなる(ただし光電子数は変わらない)。

■提案■

これは、光子が電子衝突により電子にエネルギーを供給し、金属から飛び出す際に失われるエネルギー(仕事関数)を引いた残りが電子の運動エネルギーになるため、振動数が大きな光を照射するほど、光電子の運動エネルギーが大きくなると説明ができます。

また、照射光の振動数を大きくしても、光子の量は変わらないので、金属中の電子と衝突する頻度は光の振動数が小さい時と同じであるため、光電子の数に変化は無いのです。

【結果4】

光の強度に比例して放出される電子の数が増加する(ただし光電子の最大運動エネルギーは光強度に依らない)。

■提案■

「ある振動数以上の光を照射した場合、光の強度に比例して放出される電子の数が増加する(ただし、放出された電子の運動エネルギーの最大値は、照射光の強度に依存しない)」でした。

これは、光の強度を大きくする、すなわち光源を増やすことによって照射される光子の数が増加するので、光子と衝突する電子の数が増加するために光電子の数も増加することになると説明ができます。

また、光子の数を増やしたとしても、光子のエネルギーは振動数に依存する限り、光電子の運動エネルギーは変わることはありませんね。

光の運動量

光は波動であり、粒子であるということを見てきました。

ただ粒子とはいっても、光に質量はありません。

しかしながら、粒子らしい面白い事実があります。

それは光に圧力があるということです。

これを光圧と言って、物体に光子が衝突した際に生じる圧力のことを表しています。

このことから光子は運動量を持っていると考えることができますね。

以下で光子の運動量を求めていきますが、これは気体分子運動論に基づいた圧力表式の誘導を模倣すれば導くことができます。

気体分子運動論では、箱の中に閉じ込められた空気を構成する分子の運動によって、箱の内壁にかかる圧力を求めますが、今回はこの空気分子が光子に変わったと思えばいいでしょう。

※図

幅、高さ、奥行きが長さ \(L\) [m]の箱の中にある1つの光子を考えます。

気体分子運動論で考えるように、まず \(x\) 軸方向のみでの運動量変化と力積の関係を求めてみましょう。

というのも、光子が \(x\) 軸に垂直な面に衝突する時、衝突前は \(p_x\) であり衝突後は \(-p_x\) になるはずなので、このときその壁が受ける力積 \(I\) は光子の運動量変化に相当するので、

式(1)

\[ I = (-p_x) - p_x = -2p_x \]

となることが分かります。

続いて、先程光子が衝突した壁に再度衝突するまでの時間を求めるのですが、

図のように実際は光子はあらゆる方向へ向いて進んでいるので、\(x\) 軸方向への速度成分は、\(c_x = c \cdot \frac{p_x}{p}\) であることに注意すると

式(2)

\[ \Delta t = \frac{2L}{c_x} = \frac{2L}{c}\frac{p}{p_x} \]

となります。

したがって、壁に及ぼす力は単位時間あたりの力積に等しいはずなので、作用反作用の法則から壁面外向きの方向への力積は \(-I\) になることに注意して、

式(3)

\[ f = \frac{\Delta p}{\Delta t} = \frac{-I}{\Delta t} = 2p_x \cdot \frac{c}{2L}\frac{p_x}{p} = \frac{cp_x^2}{Lp} \]

ここで、任意の方向へ運動する光子の運動量 \(p\) について、3平方の定理からつぎの式が成立します、

式(4)

\[ p^2 = p_x^2 + p_y^2 + p_z^2 \]

どの軸方向へも平均的に等しい運動量を取ると考えれば、\(p_x = p_y = p_z\) であると考えられるから、式(4)は

式(5)

\[ p^2 = 3p_x^2 \]

したがって、式(5)を用いて式(3)から \(p_x\) を消去すると、

式(6)

\[ f = \frac{cp_x^2}{Lp} = \frac{1}{3}\frac{cp}{L} \]

光子1個が壁に及ぼす圧力 \(p_{em}\) は、\(f\) を 壁の面積 \(L^2\) で割ればいいので、

式(7)

\[ p_{em}=\frac{cp}{3L^3} \]

が得られます。

※運動量を表す \(p\) と圧力を表す \(p_{em}\) の区別に注意。圧力の添字 \(em\) は電磁波:electro-magnetic waveの略を表しています。

ここで電磁気学の結果から、電磁波(ここでは光子)の圧力はマクスウェル方程式からエネルギー密度 \(u\)(名前から次元は[J/m\(^3\)])の1/3倍で与えられ、

式(8)

\[ p_{em} = \frac{u}{3} = \frac{\epsilon}{3V} =\frac{\epsilon}{3L^3} \]

ここで、\(\epsilon\) が光子(電磁波)1個のエネルギー、\(V\) は箱の体積を表します。

また係数が1/3であるのは、エネルギーが \(x, y, z\) 3軸方向に分散されていると考えるといいでしょう。

以上、式(7), (8)から \(p_{em}\) を消去して、

式(9)

\[ \epsilon = cp \]

光子のエネルギーが \(\epsilon = h\nu\) になるので、

式(10)

\[ \begin{align*} &cp = h\nu = h\frac{c}{\lambda} \\[10pt] &\therefore p = \frac{h}{\lambda} \end{align*} \]

が導かれます。

式(10)から波長が短い程(青い光ほど)光子の運動量は大きいことが分かります。

まとめ

・光は反射・屈折・回折・干渉するなど波動として振る舞う波動性を示すと同時に、光子という粒子からなっている
・光子はε=hνのエネルギーを持っている
・光子はp=h/λの運動量を持っている

またここで、前コンテンツで残していた課題をここで回収させていただきました。

それは、量子の定義についてです。

前回までは、量子を「物理量の最小単位」とさせていただいておりましたが、量子の定義は

「粒子と波の性質をあわせ持った、とても小さな物質やエネルギーの単位のこと」

とあるように改めて量子の説明を以上で完了させていただきました。

以上お疲れさまでした。