質量をもった粒子はミクロの世界では「物質波」と呼ばれる波動によって記述することができます。
そして物質波のエネルギー \(\epsilon\) と運動量 \(p\) は、次式で表現されます。
式(1)\[ \begin{align*} \epsilon = h\nu \\[10pt] p = \frac{h}{\lambda} \end{align*} \]
また外から何の影響も及ぼされない状況においては、ポテンシャルエネルギーを考える必要が無く、エネルギー保存の法則の下 \(\epsilon = \frac{p^2}{2m}\) を解くことによって、粒子と波動の二重性についての解釈を与えることが可能でした。
※物質波の詳細はこちらのコンテンツを参照して下さい。
今回は、ポテンシャルエネルギー \(U(x)\) を考慮に入れた場合において、物質波はどのような関係式に従うのかを考えていきます。
波動関数の導入
物質波はポテンシャルの違いによって様々な状態(形状)をとることが予測されます。
そこで物質波の状態を表すことができる波動関数の導入を行いましょう。
1次元の場合、波動は次のように記述できましたね。
式(2)\[ \begin{align*} &y(x) = A\sin\frac{2\pi x}{\lambda} \\[10pt] &\rightarrow y(x-vt) = A\sin2\pi\frac{x-vt}{\lambda} = A\sin 2\pi \left(\frac{x}{\lambda}- \nu t\right) \equiv y(x,t) \end{align*} \]
念の為に説明すると、1行目に示したのは最も単純な波動である正弦波です。
2行目には、\(x\) 軸方向に速度 \(v\) で進む正弦波が、時間が \(t\) 経過した後の波形を表しており、それは \(y(x - vt)\) となることを示しています。
そして、それを新たに位置 \(x\) と時刻 \(t\) の関数として \(y(x,~t)\) と定義しています。
また式変形の途中で \(v = \lambda \nu\) の関係を利用していますが、速度を表す \(v\) と振動数を表す \(\nu\) が似ているので気をつけて下さい。
更に波動を記述するのに複素数を利用すると非常に便利で、位相部分はそのまま \(2\pi \left(\frac{x}{\lambda}- \nu t\right)\) としてオイラーの公式を適用してみると
式(3)\[ e^{2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}-\nu t\right)}=\cos2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}-\nu t\right) + i\sin 2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}-\nu t\right) \]
と表現できるようになります。
なにやら初めの状態と比較して \(\cos\) 関数や虚数単位 \(i\) が増えているので全く違うものの感じがしますが、正弦波がほしい際には \(\mathrm{Im}[e^{2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}-\nu t\right)}] = \sin{2\pi \left(\frac{x}{\lambda}- \nu t\right)}\) というように式(3)の虚部を取ればいいだけなので問題はありません。
そして以上のことから式(3)を用いれば波動関数 \(\psi\) は
式(4)\[ \psi(x, t) = Ae^{2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}-\nu t\right)} \]
と表現すればいいことになります。
シュレーディンガー方程式の誘導
波動関数 \(\psi\) は多変数関数であり、変数として位置 \(x\) と時刻 \(t\) を持ちます。
そこで、\(\psi\) を \(t\) および \(x\) で偏微分してみることを考えます。
式(5):\(t\) で偏微分\[ \left(\frac{\partial \psi}{\partial t}\right)_x = -2\pi\nu iAe^{2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}- \nu t\right)} = -2\pi\nu i \psi \]
\(\left(\frac{\partial}{\partial t}\right)_x\) は \(x\) を固定して \(t\) で偏微分することを意味しています。
式(6):\(x\) で偏微分\[ \begin{align*} &\left(\frac{\partial \psi}{\partial x}\right)_t = \frac{2\pi i}{\lambda}Ae^{2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}- \nu t\right)} = \frac{2\pi i}{\lambda} \psi \\[20pt] &\left(\frac{\partial^2 \psi}{\partial x^2}\right)_t = -\left(\frac{2\pi}{\lambda}\right)^2Ae^{2\pi i \left(\frac{x}{\lambda}- \nu t\right)} = -\left(\frac{2\pi}{\lambda}\right)^2\psi \end{align*} \]
\(\left(\frac{\partial}{\partial x}\right)_t\) は \(t\) を固定して \(x\) で偏微分することを意味しています。
ここで式(1)を用いて、波動関数に物質波の関係を組み込みましょう。
すると、式(5)および式(6)は次のように書き換えることができます。
式(7)\[ \begin{align*} &\left(\frac{\partial \psi}{\partial t}\right)_x = -i\frac{\epsilon}{\hbar} \psi \\[20pt] &\Leftrightarrow \epsilon = i\hbar\frac{1}{\psi}\left(\frac{\partial \psi}{\partial t}\right)_x \end{align*} \]
式(8)\[ \begin{align*} &\left(\frac{\partial^2 \psi}{\partial x^2}\right)_t = -\frac{p^2}{\hbar^2}\psi \\[20pt] &\Leftrightarrow p^2 = -\hbar^2\frac{1}{\psi}\left(\frac{\partial^2 \psi}{\partial x^2}\right)_t \end{align*} \]
お膳立てはここまでで、ここから物質波の全エネルギー \(\epsilon\) を考えていきます。
物質波の全エネルギーは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和なので次のように表現できます。
\[ \epsilon = \frac{p^2}{2m} + U(x) \]
ここに式(7)および(8)を代入してみましょう。
\[ i\hbar\frac{1}{\psi}\left(\frac{\partial \psi}{\partial t}\right)_x = -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{\psi}\left(\frac{\partial^2 \psi}{\partial x^2}\right)_t + U(x) \]
両辺 \(\psi\) を掛ければ
\[ i\hbar\left(\frac{\partial \psi}{\partial t}\right)_x = -\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2 \psi}{\partial x^2}\right)_t + U(x)\psi \]
となります。
最後に右辺の \(\psi\) は共通部分としてまとめておきましょう。
式(9)\[ i\hbar\frac{\partial \psi(x,t)}{\partial t} = \left[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2} + U(x)\right]\psi(x,t) \]
以上、波動関数に関する方程式が得られましたが、式(9)をシュレーディンガー方程式と言います。
シュレーディンガー方程式はミクロな対象の物理学を記述することができる基礎方程式となっていて、ちょうど古典力学で言うところのニュートンの運動方程式に相当します。
また実際には波動は1次元で考えることよりも3次元で考えることの方が多いので次の節で3次元でのシュレーディンガー方程式に触れておくことにします。
3次元シュレーディンガー方程式
結論から示すと3次元におけるシュレーディンガー方程式は、
式(10)\[ i\hbar\frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t)}{\partial t} = \left[- \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + U(\boldsymbol{r})\right]\psi(\boldsymbol{r},~t) \]
と表されます。
ここで \(\nabla\)(ナブラ)はベクトル関数に作用することで、スカラーやベクトルを生み出すことができる演算子です。
具体的には、
\[ \nabla = \begin{bmatrix} \frac{\partial}{\partial x} \\[5pt] \frac{\partial}{\partial y} \\[5pt] \frac{\partial}{\partial z} \end{bmatrix} \]
というもので、これを波動関数 \(\psi\) に2回作用させるとスカラーを生成します。
式(11)\[ \begin{align*} \nabla \psi(\boldsymbol{r},~t) &= \nabla \psi(x,~y,~z,~t) \\[10pt] &= \begin{bmatrix} \frac{\partial}{\partial x} \\[5pt] \frac{\partial}{\partial y} \\[5pt] \frac{\partial}{\partial z} \end{bmatrix} \psi(x,~y,~z,~t) = \begin{bmatrix} \frac{\partial \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial x} \\[5pt] \frac{\partial \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial y} \\[5pt] \frac{\partial \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial z} \end{bmatrix} \end{align*} \]
式(12)\[ \begin{align*} \nabla^2 \psi(\boldsymbol{r},~t) &= \nabla \cdot \nabla \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[10pt] &= \begin{bmatrix} \frac{\partial}{\partial x} \\[5pt] \frac{\partial}{\partial y} \\[5pt] \frac{\partial}{\partial z} \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix} \frac{\partial \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial x} \\[5pt] \frac{\partial \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial y} \\[5pt] \frac{\partial \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial z} \end{bmatrix} \\[30pt] &= \frac{\partial^2 \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 \psi(x,~y,~z,~t)}{\partial z^2} \end{align*} \]
このため、3次元シュレーディンガー方程式は
\[ i\hbar\frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t)}{\partial t} = \left[- \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}\right) + U(\boldsymbol{r})\right]\psi(\boldsymbol{r},~t) \]
とも表されます。
この関係を利用して以下で3次元のシュレーディンガー方程式を導いていきましょう。
もちろん始まりは、先程の手続きと同様で波動関数からですね。
3次元の波動関数は次のように表現されます。
どうしてこの形でいいのか時間があるときにじっくり考えてみて下さい。
式(13)\[ \begin{align*} &\psi(\boldsymbol{r},~t) = Ae^{i(k_x x + k_y y + k_z z - \omega t)} = Ae^{i(\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r} - \omega t)} \\[10pt] &\boldsymbol{k} = \begin{bmatrix} k_x \\ k_y \\ k_z \end{bmatrix},~ \boldsymbol{r} = \begin{bmatrix} x \\ y \\ z \end{bmatrix} \end{align*} \]
※筆者が当時大学生の頃には、波数と位置座標の積の和で表現されるところに混乱していました。同じところに混乱している人は、この注の内容が何らかの参考になるかもしれません。波数をその言葉通りに解釈するよりも次元で解釈したほうが圧倒的に良いです。波数の次元は [rad/m] ですね(正確には rad は次元ではないですが)。つまり距離あたりにどのくらい位相が変化するのかを示す量です。ここまで説明すれば理解できるかもしれないですね。つまり空間に波動が満たされているとして、ある点から \(x\) 方向に進めば、それは \(k_x x\) だけ位相が進むことを意味します(あるいは戻ります)。またその点から \(y\) 方向へ進めば更に \(k_y y\) だけ位相が進みます(あるいは戻ります)。以下同様です。
まずは試しに波動関数を \(x\) で偏微分してみます。
式(14)\[ \begin{align*} \frac{\partial}{\partial x} \psi(\boldsymbol{r},~t) &= \frac{\partial}{\partial x} Ae^{i(k_x x + k_y y + k_z z - \omega t)} \\[10pt] &= ik_x A^{i(k_x x + k_y y + k_z z - \omega t)} \\[10pt] &= ik_x \psi(\boldsymbol{r},~t) \end{align*} \]
この関係は \(y\) および \(z\) の場合においても成立するので、それらを縦に並べれば
式(15)\[ \begin{align*} &\begin{bmatrix} \frac{\partial}{\partial x} \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[5pt] \frac{\partial}{\partial y} \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[5pt] \frac{\partial}{\partial z} \psi(\boldsymbol{r},~t) \end{bmatrix} = i \begin{bmatrix} k_x \\ k_y \\ k_z \end{bmatrix} \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[30pt] &\Leftrightarrow ~ \nabla \psi(\boldsymbol{r},~t) = i \boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{r},~t) \end{align*} \]
ここで、両辺を \(\psi(\boldsymbol{r},~t)\) で割るという操作はできないことに注意して下さい。
なぜなら、\(\nabla\) が作用している関数は必ず \(\nabla\) とセットで扱うからです。
このことに留意しながら話を続けます。
次に式(15)にもう一度 \(\nabla\) を作用させてみましょう。
式(16)\[ \begin{align*} \nabla^2 \psi(\boldsymbol{r},~t) &= i \boldsymbol{k} \cdot \nabla \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[10pt] &= i \boldsymbol{k} \cdot i \boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[10pt] &= - |\boldsymbol{k}|^2 \psi(\boldsymbol{r},~t) \end{align*} \]
ここで、物質波の関係式(1)から波数は \(p = \hbar k\) で置き換えられるので
式(17)\[ \begin{align*} &\nabla^2 \psi(\boldsymbol{r},~t) = - \frac{p^2}{\hbar^2} \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[10pt] &\Leftrightarrow p^2 = - \frac{\hbar^2}{\psi(\boldsymbol{r},~t)}\nabla^2 \psi(\boldsymbol{r},~t) \end{align*} \]
が得られます。
また、波動関数式(13)の時間微分から
式(18)\[ \begin{align*} \frac{\partial}{\partial t} \psi(\boldsymbol{r},~t) &= \frac{\partial}{\partial t} Ae^{i(\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r} - \omega t)} \\[10pt] &= - i \omega Ae^{i(\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r} - \omega t)} \\[10pt] &= - i \omega \psi(\boldsymbol{r},~t) \\[10pt] \end{align*} \\ \Leftrightarrow ~ \omega = i \frac{1}{\psi(\boldsymbol{r},~t)}\frac{\partial}{\partial t} \psi(\boldsymbol{r},~t) \]
と言ったように、角速度の関係式が得られます。
そして、物質波の総エネルギー \(\epsilon = \hbar \omega = \frac{p^2}{2m} + U(\boldsymbol{r})\) に式(17)および式(18)を代入すると
\[ \begin{align*} &\epsilon = \hbar \omega = \frac{p^2}{2m} + U(\boldsymbol{r}) \\[20pt] &\Leftrightarrow ~ \hbar \left( i \frac{1}{\psi(\boldsymbol{r},~t)}\frac{\partial}{\partial t} \psi(\boldsymbol{r},~t) \right) = \frac{1}{2m}\left( - \frac{\hbar^2}{\psi(\boldsymbol{r},~t)}\nabla^2 \psi(\boldsymbol{r},~t) \right) + U(\boldsymbol{r}) \\[20pt] &\Leftrightarrow ~ i\hbar \frac{\partial}{\partial t}\psi(\boldsymbol{r},~t) = \left[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + U(\boldsymbol{r})\right]\psi(\boldsymbol{r},~t) \end{align*} \]
となって確かに冒頭で示した式(10)が得られることが確認できます。
ただ、上記で示したような誘導方法では、いかんせん数式を組み合わせて遊んでいるかのようで、どうも物理的な意味合いが分かりづらいと思うのは筆者だけでしょうか。
例えば、誘導の途中で偏微分という操作を行いましたが、私のセンスからすると「このタイミングで微分を考えてみよう!」とはならないのです…一体どういうことを示しているのでしょう?
再度シュレーディンガー方程式の誘導を考える
前節で示した誘導はあまりに抽象的な数学的操作だけであって、結局のところシュレーディンガー方程式が何を指し示しているのかイマイチよく分かりません。
そこで、この節では物理的な意味を考えながらもう一度シュレーディンガー方程式を誘導します。
ところが以下で紹介する内容は、はっきり言って初学者向けではありません。
もちろん大学初年度の方でもなるべく理解できるようにさせていただきましたので、余裕のある方はこのまま読み進めていただきたいところではありますが、
そうでない方は無視して次の節に飛んでいただいても問題はありません。
=====
まず物理的な意味を考慮して結果を導く際には何らかの物理的なモデルが必要になります。
モデルのベースにするのは「複数の正弦波が重なり合って作り出される波動が打ち消し合うことなく存在し続けるには、それぞれの正弦波の位相が一致している必要がある」ことです。
波動が打ち消し合って消滅する状況を考えても大抵の場合は仕方がないですからね。
それではこの状況を数学的に表現してみましょう。
※図
ある点から波動が送り出されるとホイヘンスの原理によって、あらゆる点で素元波が生成されます。
そのうち \(\boldsymbol{r}_1\), \(\boldsymbol{r}_2\), \(\cdots\) \(\boldsymbol{r}_N\) において時刻 \(t'\) で発生した素元波を考えることにしましょう。
それら波動関数は \(\psi(\boldsymbol{r}_1,~t')\), \(\psi(\boldsymbol{r}_2,~t')\), \(\cdots\) \(\psi(\boldsymbol{r}_N,~t')\) と表現することができます。
※波動関数 \(\psi\) ですが、慣れるまでは波動の高さだと考えるといいでしょう。
これらが重なり合って多様な形状の波動 \(\psi\) が形成されますが、ある時刻 \(t\) で \(\boldsymbol{r}\) における波動関数を \(\psi(\boldsymbol{r},~t)\) と表現することにしましょう。
\(\psi(\boldsymbol{r},~t)\) は \(\psi(\boldsymbol{r}_1,~t')\), \(\psi(\boldsymbol{r}_2,~t')\), \(\cdots\) \(\psi(\boldsymbol{r}_N,~t')\) が重なり合うことで形成された波動なので、つまりこれらの和で表現することができそうです。
しかしながら注意すべきことは単純な足し算で表現することはできません。
誤り\[ \psi(\boldsymbol{r},~t) = \psi(\boldsymbol{r}_1,~t') + \psi(\boldsymbol{r}_2,~t') +, \cdots + \psi(\boldsymbol{r}_N,~t') \]
つまりこの通りではないということです。
この式の場合、右辺と左辺の引数を見てみると全く異なる事がわかります。
右辺の \(\psi(\boldsymbol{r}_j,~t') ~ (1\leqq j\leqq N)\) は位置 \(\boldsymbol{r}_j\) の時刻 \(t'\) での話であって、位置 \(\boldsymbol{r}\) の時刻 \(t\) での波動関数 \(\psi(\boldsymbol{r},~t)\) とは全く話が噛み合っていません。
これでは、もしどちらか一辺の引数が変化したとしても他辺の様子は全く変化しないことになり、両辺が互いに独立であるという意味になってしまうのですね。
これを解決するために、\(\psi(\boldsymbol{r}_j,~t') ~ (1\leqq j\leqq N)\) に少し補正を加えます。
波動関数 \(\psi(\boldsymbol{r}_j,~t)\) 1つに着目して、これが周囲に伝播し、時刻 \(t\) において位置 \(\boldsymbol{r}\) に波動を形成するとき、波動関数 \(\psi(\boldsymbol{r},~t)\) は
式(19)\[ \begin{align*} \psi(\boldsymbol{r},~t) &= A_j e^{i(\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r} - \omega t)} \\[10pt] &= A_j e^{i(\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}_j - \omega t')} e^{i\left\{\boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_j) - \omega (t - t')\right\}} \\[10pt] &= e^{i\left\{\boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_j) - \omega (t - t')\right\}} \psi(\boldsymbol{r}_j,~t') \end{align*} \]
と表すことができます。
ただし、発生する波動の波数 \(k\) および角速度 \(\omega\) は、\(j\) に依存せず一定としました。
そして、\(N\) 個の波動の重ね合わせを考える際には、式(19)の右辺に \(j\) に関して和をとれば良いということで
式(20)\[ \psi(\boldsymbol{r},~t) = \sum_{j = 1}^N e^{i\left\{\boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_j) - \omega (t - t')\right\}} \psi(\boldsymbol{r}_j,~t') \]
となります。
ここで一旦波動関数の式変形から離れて、位相について考えていきます。
一般に、位置 \(\boldsymbol{r}\)、時刻 \(t\) における位相 \(\phi\) は、波数および角速度を用いて次のように表されます。
式(21)\[ \phi(\boldsymbol{r},~t) = \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r} - \omega t \]
これと位置 \(\boldsymbol{r}_j\) および時刻 \(t'\) における位相 \(\phi(\boldsymbol{r}_j,~t') = \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}_j - \omega t'\) との差を考えると次のようになります。
式(22)\[ \begin{align*} \Delta \phi_j &\equiv \phi(\boldsymbol{r},~t) - \phi(\boldsymbol{r}_j,~t') \\[10pt] &= \boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_j) - \omega (t - t') \\[10pt] &= \boldsymbol{k} \cdot \Delta \boldsymbol{r}_j - \omega \Delta t ~~~ (~ \Delta \boldsymbol{r}_j \equiv \boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_j,~\Delta t \equiv t - t'~) \\[10pt] &= \left(\boldsymbol{k} \cdot \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t} - \omega\right) \Delta t \end{align*} \]
ここで時間間隔 \(\Delta t\) を狭めて考えたほうが、詳細な波動の運動を記述することができるはずなので、\(\Delta t \rightarrow 0\) という変数にします。
それに伴って、\(\Delta \boldsymbol{r}_j\) も小さくしなければ、\(\frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t}\) が \(\infty\) に発散してしまうので \(\Delta \boldsymbol{r}_j \rightarrow 0\) とします。
またこのような状況設定をすることで、冒頭で話した重なり合う波動どうしが強め合うための条件を同時にクリアすることができます。
\(\Delta \boldsymbol{r}_j \rightarrow 0\) であるため、間接的に異なる素元波の発生点も近くなり位相が一致しやすくなっているのです。
話を続けましょう。
式(22)に物質波の関係式 \(\epsilon = \hbar \omega\) および \(\boldsymbol{p} = \hbar \boldsymbol{k}\) を利用してみます。
式(23)\[ \begin{align*} \Delta \phi_j &= \left(\frac{\boldsymbol{p}}{\hbar} \cdot \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t} - \frac{\epsilon}{\hbar}\right) \Delta t \\[20pt] &= \frac{1}{\hbar} \left(\boldsymbol{p} \cdot \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t} - \epsilon\right) \Delta t \end{align*} \]
ここで \(\boldsymbol{p} \cdot \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t} = m\frac{d\boldsymbol{r}}{dt} \cdot \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t} \simeq m \left(\frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t}\right)^2\) として、物質波の全エネルギー \(\epsilon = \frac{1}{2}m\left(\frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t}\right)^2 + U\left(\frac{\boldsymbol{r} + \boldsymbol{r}_j}{2}\right)\) を代入すると
式(24)\[ \begin{align*} \Delta \phi_j &= \frac{1}{\hbar} \left\{\frac{1}{2}m\left(\frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t}\right)^2 - U\left(\frac{\boldsymbol{r} + \boldsymbol{r}_j}{2}\right)\right\} \Delta t \\[20pt] &= \frac{1}{\hbar} \left\{\frac{1}{2} m \frac{|\Delta \boldsymbol{r}_j|^2}{\Delta t} - U\left(\frac{\boldsymbol{r} + \boldsymbol{r}_j}{2}\right) \Delta t\right\} \end{align*} \]
となります。
※速度は平均速度 \(\frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{\Delta t} = \frac{\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r_j}}{t - t'}\) ポテンシャルエネルギーの引数はそれぞれの位置の平均値 \(\frac{\boldsymbol{r} + \boldsymbol{r}_j}{2}\) になっています。
位相に関する議論はここまでで、再度波動関数の話に戻しましょう。
まずは、式(20)を式(22)、式(24)によって次のように書き換えてみることにすると
式(25)\[ \begin{align*} \psi(\boldsymbol{r},~t) = \psi(\boldsymbol{r},~ \textcolor{red}{t' + \Delta t}) &= \sum_{j = 1}^N e^{i\left\{\boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_j) - \omega (t - t')\right\}} \psi(\boldsymbol{r}_j,~t') \\[20pt] &= \sum_{j = 1}^N e^{i \textcolor{red}{\Delta \phi_j}} \psi(\textcolor{red}{\boldsymbol{r} - \Delta \boldsymbol{r}_j},~t') \\[20pt] &= \sum_{j = 1}^N \exp{\left[\frac{i}{\hbar} \left\{\frac{1}{2} m \frac{|\Delta \boldsymbol{r}_j|^2}{\Delta t} - U\left(\frac{\boldsymbol{r} + \boldsymbol{r}_j}{2}\right) \Delta t\right\}\right]} \psi(\boldsymbol{r} - \Delta \boldsymbol{r}_j,~t') \\[20pt] &= \sum_{j = 1}^N \exp{\left[\frac{i}{\hbar} \left\{\frac{1}{2} m \frac{|\Delta \boldsymbol{r}_j|^2}{\Delta t} - U\left(\textcolor{red}{\boldsymbol{r} - \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{2}}\right) \Delta t\right\}\right]} \psi(\boldsymbol{r} - \Delta \boldsymbol{r}_j,~t') \end{align*} \]
このようになりますね。
ここで波動関数を次のようにテイラー展開してみましょう。
式(26)\[ \begin{align*} \psi(\boldsymbol{r},~t' + \Delta t) &\simeq \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t}\Delta t \\[20pt] \psi(\boldsymbol{r} - \Delta \boldsymbol{r}_j,~t') &\simeq \psi(\boldsymbol{r},~t') - \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r} \boldsymbol{e}_r \cdot \Delta \boldsymbol{r}_j + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} |\Delta \boldsymbol{r}_j|^2 \\[20pt] &= \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} (\Delta r_j)^2 ~~~ ( ~ \Delta \boldsymbol{r}_j \rightarrow \boldsymbol{0} \Rightarrow \boldsymbol{e}_r \cdot \Delta \boldsymbol{r}_j = 0 ~ ) \end{align*} \]
※テイラー展開で何次近似を採用するかは、何を目的としているのかで変わってきます。今回は(筆者が)結果を知っているので、時間の展開は1次、位置の展開は2次で採用しています。実際に理論研究をする際には何次近似にするのかを模索するものと思われます。
したがって、式(25)は
式(27)\[ \begin{align*} \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t}\Delta t &= \sum_{j = 1}^N \exp\left[\frac{i}{\hbar} \left\{\frac{1}{2} m \frac{|\Delta \boldsymbol{r}_j|^2}{\Delta t} - U\left(\boldsymbol{r} - \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{2}\right) \Delta t\right\}\right] \left\{ \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} (\Delta r_j)^2 \right\} \\[20pt] &= \sum_{j = 1}^N \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r_j)^2}{\Delta t}\right] \exp\left[- \frac{i}{\hbar} U\left(\boldsymbol{r} - \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{2}\right) \Delta t\right] \left\{ \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} (\Delta r_j)^2 \right\} \end{align*} \]
指数部に関して、更にテイラー展開によって近似することができて
式(28)\[ \begin{align*} \exp\left[- \frac{i}{\hbar} U\left(\boldsymbol{r} - \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{2}\right) \Delta t\right] &\simeq 1 - \frac{i}{\hbar} U\left(\boldsymbol{r} - \frac{\Delta \boldsymbol{r}_j}{2}\right) \Delta t \\[20pt] &\simeq 1 - \frac{i}{\hbar}\left\{U(\boldsymbol{r}) - \frac{1}{2}\frac{dU(\boldsymbol{r})}{dr} \boldsymbol{e}_r \cdot \Delta \boldsymbol{r}_j\right\}\Delta t \\[20pt] &= 1 - \frac{i}{\hbar}\left\{U(\boldsymbol{r}) \Delta t - \frac{1}{2}\frac{dU(\boldsymbol{r})}{dr} \boldsymbol{e}_r \cdot \textcolor{red}{\Delta \boldsymbol{r}_j \Delta t}\right\} \\[20pt] &\simeq 1 - \frac{i}{\hbar}U(\boldsymbol{r}) \Delta t \end{align*} \]
となります。
赤で示したところは2次の微小量と呼ばれ、これが含まれる第2項は第1項よりも非常に小さいので無視して消去しました。
したがって式(27)は
式(29)\[ \begin{align*} \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t}\Delta t &= \sum_{j = 1}^N \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r_j)^2}{\Delta t}\right] \left(1 - \frac{i}{\hbar}U(\boldsymbol{r}) \Delta t\right) \left\{ \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} (\Delta r_j)^2 \right\} \\[20pt] &= \left(1 - \frac{i}{\hbar}U(\boldsymbol{r}) \Delta t\right) \sum_{j = 1}^N \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r_j)^2}{\Delta t}\right] \left\{ \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} (\Delta r_j)^2 \right\} \end{align*} \]
となります。
ここで、そろそろ和を積分に置き換えて計算してみることを考えてみましょう。
\(j\) について和をとる際に変化する変数は \(r_j\) なので、これを積分変数として扱います。
ただし、積分に置き換えることによってこの変数は連続量に変化するので、改めて \(r'\) という変数にします。
つまり、\(\sum_{j=1}^N f(r_j)\) という表記から \(C\int f(r') dr'\) に置き換えを行います。
ここで和から積分に置き換えることによって急に現れた \(C\) は定数です。
積分するときには、\(f(r')\) の和ではなく、 \(f(r')dr'\) の和であるというところがポイントで、余分に \(dr'\) を掛け合わせているために長さの次元が増えてしまっているのです。
\(C\) は、その長さの次元を打ち消すために導入されており、ちょうど長さの逆数の次元を持つことになります。
したがって、以上のことから式(29)は次のように書き換えられます。
式(30)\[ \begin{align*} \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t}\Delta t &= \left(1 - \frac{i}{\hbar}U(\boldsymbol{r}) \Delta t\right) C \int_{-\infty}^\infty \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r')^2}{\Delta t}\right] \left\{ \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} (\Delta r')^2 \right\} dr' \\[20pt] &= \left(1 - \frac{i}{\hbar}U(\boldsymbol{r}) \Delta t\right) C \left\{ \psi(\boldsymbol{r},~t') \int_{-\infty}^\infty \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r')^2}{\Delta t}\right] dr' + \frac{1}{2}\frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} \int_{-\infty}^\infty (\Delta r')^2 \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r')^2}{\Delta t}\right] dr' \right\} \end{align*} \]
念の為に書いておきますが式中の \(\Delta r'\) は \(\Delta r' = r - r'\) のことです。
更に右辺の第1項および第2項の積分を計算してみます。
これらはガウス積分を利用すればよく
\[ \begin{align*} &\int_{-\infty}^\infty e^{-ax^2} dx = \sqrt{\frac{\pi}{a}} \\[20pt] &\int_{-\infty}^\infty x^2e^{-ax^2} dx = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{\pi}{a^3}} = \frac{1}{2a} \sqrt{\frac{\pi}{a}} \end{align*} \]
なので、これらの関係を利用すれば
第1項\[ \begin{align*} \int_{-\infty}^\infty \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r')^2}{\Delta t}\right] dr' &= \int_{-\infty}^\infty \exp\left[- \frac{m}{2 i \hbar \Delta t} (r' - r)^2\right] dr' \\[20pt] &= \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \end{align*} \]
第2項\[ \begin{align*} \int_{-\infty}^\infty (\Delta r')^2 \exp\left[\frac{i}{2\hbar} m \frac{(\Delta r')^2}{\Delta t}\right] dr' &= \int_{-\infty}^\infty (r' - r)^2 \exp\left[ - \frac{m}{2 i \hbar \Delta t} (r' - r)^2\right] dr' \\[20pt] &= \frac{i \hbar \Delta t}{m} \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \end{align*} \]
という結果が得られます。
すると、式(30)は
式(31)\[ \begin{align*} \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t}\Delta t &= \left(1 - \frac{i}{\hbar}U(\boldsymbol{r}) \Delta t\right) C \left\{ \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2} \frac{i \hbar \Delta t}{m} \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} \right\} \\[20pt] &= \left\{ C \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{C}{2} \frac{i \hbar \Delta t}{m} \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} \right\} - \frac{i}{\hbar}U(\boldsymbol{r}) \left\{ C \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \psi(\boldsymbol{r},~t') \Delta t + \frac{C}{2} \frac{i \hbar \textcolor{red}{(\Delta t)^2}}{m} \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} \right\} \\[20pt] &\simeq C \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{C}{2} \frac{i \hbar \Delta t}{m} \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} - \frac{iC}{\hbar} \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} U(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r},~t') \Delta t \end{align*} \]
となりますね。
ちなみに2行目の式から3行目の式に映る際に、式中に存在する2次の微小量 \((\Delta t)^2\) によって末項を無視していることに注意です。
最後に、両辺第1項 \(\psi(\boldsymbol{r},~t')\) の係数を比較して係数 \(C\) を具体的に定めると、
\[ \begin{align*} 1 = C \left(\frac{2\pi i \hbar \Delta t}{m}\right)^\frac{1}{2} \\[20pt] \therefore ~ C = \left(\frac{m}{2\pi i \hbar \Delta t}\right)^\frac{1}{2} \end{align*} \]
であることが分かり、\(C\) を式(31)に戻すと、
式(32)\[ \begin{align*} &\psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t}\Delta t \simeq \psi(\boldsymbol{r},~t') + \frac{1}{2} \frac{i \hbar \Delta t}{m} \frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} - \frac{i}{\hbar} U(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r},~t') \Delta t \\[20pt] &\Leftrightarrow ~ \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t}\Delta t \simeq \frac{i \hbar \Delta t}{2m} \frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} - \frac{i}{\hbar} U(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r},~t') \Delta t \end{align*} \]
このように、なんとなく見覚えのある表現に落ち着きます。
そして両辺に \(\frac{i\hbar}{\Delta t}\) を掛ければ、
式(32)の続き\[ \begin{align*} &\Leftrightarrow ~ i \hbar \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial t} \simeq - \frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2 \psi(\boldsymbol{r},~t')}{\partial r^2} + U(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r},~t') \\[20pt] &\therefore ~ i \hbar \frac{\partial \psi(\boldsymbol{r},~t)}{\partial t} \simeq \left[- \frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2}{\partial r^2} + U(\boldsymbol{r}) \right] \psi(\boldsymbol{r},~t) \end{align*} \]
となってシュレーディンガー方程式が導くことができました。
式の最後で形式的に時刻 \(t'\) を \(t\) に変えています。
ここまで非常に長い作業でしたが、本質は
①波動の重ね合わせを考えて、 ②それぞれの位相が一致するとき(実際には大きくズレていないとき)を計算した
だけです。
そしてこの計算によって、シュレーディンガー方程式が示す意味が分かってきて、波動が打ち消し合わずに強め合って有意な解をもつための関係式という解釈になりますね。
前節で示した誘導方法では、いきなり偏微分を行うというよく分からない操作を行ってしまいましたが、こちらでは偏微分が自然に現れるので無理な解釈を求められずに済みます。
また冒頭で記した参考書では、スカラー関数を用いて誘導されているので、今回ここで示した方法とは少しだけ異なる部分があります。
気になる方は御覧ください。
そして間違いがあれば、優しくご指摘していただければ幸いです。
波動関数の特徴
最後に波動関数の特徴について簡単に解説をして終了することにしましょう。
その特徴とは「一価性」「連続性」「有限性」の3つが挙げられます。