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凝固点降下
凝固点が Tf の純粋な溶媒に別の成分を溶解させたとき、溶媒の凝固点は純粋であるときより幾分か小さくなる事が知られています。
この現象を凝固点降下と呼びます。
当ページでは凝固点降下を定量的に扱うための理論を導出することを目標としています。
■このページで分かる内容のまとめ■
凝固点 Tf の純粋な溶媒1に、異なる成分2を微量添加したとき溶媒の凝固点は次に示す ΔTf だけ降下することが知られており、これを凝固点降下と言います。
凝固点降下度
ΔTf ≃ −ΔHˉm(Tf, P)RTf2x2
ここで R は気体定数、ΔHˉm(Tf, P) は圧力 P における溶媒1の融解エンタルピー変化、x2 は成分2の液相におけるモル分率を表しています。
凝固点と凝固点降下
液体を冷却していくとある温度で固体に状態変化します。その温度を凝固点と呼び以下 Tf で表します。
凝固点 Tf をもつ純粋な液体1を溶媒として異なる成分2を溶解させたとき、溶媒1の凝固点は Tf よりも小さくなる凝固点降下が生じます。
凝固点における数学的記述について
凝固点では液体から固体への状態変化が可能となり、ちょうど液体と固体が共存する温度とも言えます。
成分1のみ含まれる系について圧力 P の下で固液平衡状態にあれば液相と固相の着目する成分の化学ポテンシャルが互いに等しくなります。
式(1)
μ1(S)(Tf, P)=μ1(L)(Tf, P)
- μ1(S) : 固相の成分1の化学ポテンシャル
- μ1(L) : 液相の成分1の化学ポテンシャル
凝固点降下度の理論的導出
純粋な溶媒1に、異なる成分2を少量添加して調製した溶液を冷却する状況を考えます。
このとき固体が析出し始める温度は、純粋な溶媒1の凝固点 Tf ではなく異なる温度 Tf′ となります。
この固体には成分1のみ含まれるとしたとき、凝固点 Tf′ における固液平衡条件は次式で与えられます。
式(2)
μ1(S)(Tf′, P)=μ1(L)(Tf′, P; n(L))
- μ1(S)(Tf′, P) : 成分1のみからなる純粋な固体の化学ポテンシャル
- μ1(L)(Tf′, P; n(L)) : 溶液中の成分1の化学ポテンシャル
- n(L) : 溶液中に含まれる成分1および成分2の物質量の組 ( n(L)=(n1(L), n2(L)) )
いま溶液には成分2がわずかしか含まれていないため理想希薄溶液として振る舞うと考えられます。このとき溶液中の成分1の化学ポテンシャルを次に示すとおりモル分率 x1 を用いて記述することができます。
式(3)
μ1(L)(Tf′, P; n(L))=μ1(L)(Tf′, P)+RTf′lnx1
式(3)を式(2)に戻して次式を得ます。
式(4)
μ1(S)(Tf′, P)=μ1(L)(Tf′, P)+RTf′lnx1
さて、ここから凝固点降下度を解析的に求めていきます。
以下では溶液の凝固点 Tf′ を純粋な溶媒1の凝固点 Tf から幾分か変化することを意味して Tf+ΔTf と書くとします。
すると式(4)は
式(5)
μ1(S)(Tf+ΔTf, P)=μ1(L)(Tf+ΔTf, P)+R(Tf+ΔTf)lnx1
となります。
この ΔTf が凝固点降下度であり、結論として負の値を持ちますが以下の解析からその結果を理論的に明らかにすることができます。
式(5)中の化学ポテンシャルを次のようにテイラー1次近似して
式(6)
μ1(S)(Tf+ΔTf, P) ≃ μ1(S)(Tf, P)+(∂T∂μ1(S)(Tf, P))PΔTfμ1(L)(Tf+ΔTf, P) ≃ μ1(L)(Tf, P)+(∂T∂μ1(L)(Tf, P))PΔTf
式(6)を式(5)に戻したものが次式です。
式(7)
μ1(S)(Tf, P)+(∂T∂μ1(S)(Tf, P))PΔTf ≃ μ1(L)(Tf, P)+(∂T∂μ1(L)(Tf, P))PΔTf+R(Tf+ΔTf)lnx1
ここで式(1)から μ1(S)(Tf, P)=μ1(L)(Tf, P) の関係と式(7)を合わせると次式が得られます。
式(8)
(∂T∂μ1(S)(Tf, P))PΔTf ≃ (∂T∂μ1(L)(Tf, P))PΔTf+R(Tf+ΔTf)lnx1
化学ポテンシャルの温度に関する偏微分係数はモルエントロピーに等しく (∂T∂μ)P=−S の関係を持つことを利用して式(8)を書き換えていくと
式(9)
eq(9.1) : −Sˉ1(S)(Tf, P)ΔTf ≃ −Sˉ1(L)(Tf, P)ΔTf+R(Tf+ΔTf)lnx1eq(9.2) : {ΔSˉm(Tf, P)−Rlnx1}ΔTf ≃ RTflnx1eq(9.3) : ∴ ΔTf ≃ ΔSˉm(Tf, P)−Rlnx1RTflnx1
のようにまとめられます。
ただし式(9)中の ΔSˉm は融解エントロピー変化を表し、次式で与えられます。
式(10)
ΔSˉm≡Sˉ1(L)(Tf, P)−Sˉ1(S)(Tf, P)
式(9.3)を更に近似して整理していきます。
扱っている系が理想希薄溶液であることから次の近似が成り立ちます。
式(11)
lnx1=ln(1−x2)≃−x2
式(11)を式(9.3)に適用すると次式が得られます。
式(12)
ΔTf ≃ −ΔSˉm(Tf, P)+Rx2RTfx2<0
式(12)右辺に含まれる物理量はすべて正の値をもつため、結果 ΔTf<0 であることも直ちに理解できます。
更に近似できて、x2 は非常に小さいので 式(12)右辺分母の Rx2 を無視すると
式(13)
ΔTf ≃ −ΔSˉm(Tf, P)RTfx2
となります。
融解エントロピー変化は融解エンタルピー変化を用いて ΔSˉm=TfΔHˉm として表されることを用いて
式(14)
ΔTf ≃ −ΔHˉm(Tf, P)RTf2x2
を得ることができます。
【サイト運営 : だいご】
今年で物理化学歴12年目になります。
大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。