エネルギー \(\epsilon_i\) をもつ分子数 \(N_i\) はボルツマン分布によって記述することができました。
当ページで紹介するマクスウェル・ボルツマン分布は、速度 \(v_i\) をもって運動する分子の数を記述してくれます。
■目次■
マクスウェル・ボルツマン分布
マクスウェル・ボルツマン分布の導出
マクスウェル・ボルツマン分布の導出をしていきます。
仮定として系を構成する分子間には相互作用が働いていない状況を考えます。
このとき分子がもつエネルギーは運動エネルギーのみで記述できます。
エネルギー \(\epsilon_i\) をもつ分子の運動エネルギーは \(\epsilon_i = \frac{1}{2}mv_i^2\) で与えられるので、これをボルツマン分布に代入していく流れになります。
ボルツマン分布から導かれる確率分布 \(\frac{N_i}{N}\) は次式のとおり。
\[ \frac{N_i}{N} = \frac{\mathrm{g}_i e^{-\frac{\epsilon_i}{k_\text{B}T}}}{\displaystyle\sum_{j = 0}^r \mathrm{g}_j e^{-\frac{\epsilon_j}{k_\text{B}T}}} = \frac{\mathrm{g}_i e^{-\frac{mv_i^2}{2k_\text{B}T}}}{\displaystyle\sum_{j = 0}^r \mathrm{g}_j e^{-\frac{mv_j^2}{2k_\text{B}T}}} \]
また3次元空間を運動する分子について、エネルギー準位 \(\epsilon_i\) の縮退度 \(\mathrm{g}_i\) は次のようになります。
\[ \mathrm{g}_i = \frac{4\pi v_i^2 \Delta v_i}{\Delta v^3} \]
※縮退度が式(2)で与えられる理由はこちらのページで解説しています。
そして式(2)を式(1)に代入すると…
\[ \frac{N_i}{N} = \frac{\displaystyle \frac{4\pi v_i^2 \Delta v_i}{\Delta v^3} e^{-\frac{mv_i^2}{2k_\text{B}T}}}{\displaystyle\sum_{j = 0}^r \frac{4\pi v_j^2 \Delta v_j}{\Delta v^3} e^{-\frac{mv_j^2}{2k_\text{B}T}}} = \frac{\displaystyle v_i^2 e^{-\frac{mv_i^2}{2k_\text{B}T}} \Delta v_i}{\displaystyle\sum_{j = 0}^r v_j^2 e^{-\frac{mv_j^2}{2k_\text{B}T}} \Delta v_j} \]
となって、\(\Delta v_i \rightarrow 0\) ( 同様に \(\Delta v_j \rightarrow 0\) ) としたとき、
\(r \rightarrow \infty\) および \(N_i \rightarrow dN\) に近づいて行くことから、結果として式(3)は次のように書き換えられます。
\[ \frac{dN}{N} = \frac{v^2 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} dv}{\displaystyle\int_0^\infty v'^2 e^{-\frac{mv'^2}{2k_\text{B}T}} dv'} \]
式(4)の積分はガウス積分を用いれば
\[ \int_0^\infty v'^2 e^{-\frac{mv'^2}{2k_\text{B}T}} dv' = \frac{\sqrt{\pi}}{4} \left( \frac{2k_\text{B}T}{m} \right)^{\frac{3}{2}} \]
となるので、式(5)を式(4)に戻して 速度 \(v\) に関する確率分布 マクスウェル・ボルツマン分布 を得ることができます。
\[ \frac{dN}{N} = \frac{v^2 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} dv}{\displaystyle \frac{\sqrt{\pi}}{4} \left( \frac{2k_\text{B}T}{m} \right)^{\frac{3}{2}}} = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \left( \frac{m}{k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} v^2 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} dv \]
確率密度関数を \(f(v)\) として、以下では次のように記述することにします。
\[ f(v) = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \left( \frac{m}{k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} v^2 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} \]
マクスウェル・ボルツマン分布のグラフ
マクスウェル・ボルツマン分布の確率密度関数 \(f(v)\) の概形を確認してみましょう。
グラフは、ある速度でピークを迎えたのち なだらかに下がっていることが分かります。
また次に示すのは、確率密度分布式(7)の温度 \(T\) を変化させたときに得られるグラフです。
高温になるほど、グラフ全体が右側に移動する傾向にあることが分かります。
気体分子運動論の結果では、気体分子の運動エネルギーは次式で示す通り温度に依存しており、高温であるほど分子の速度は大きくなることの正当性が理解できます。
\[ \frac{1}{2} m\bar{v^2} = \frac{3}{2}k_\text{B}T \]
マクスウェル・ボルツマン分布から分かる速度の期待値
マクスウェル・ボルツマン分布を用いれば、分子の速度について様々な期待値を計算できます。
以下では
- 平均速度
- 二乗平均速度
- 最確速度
の3つを見ていきます。
分子の平均速度
分子の平均速 \(\bar{v}\) を求めてみましょう。
\(\bar{v}\) は速度の1乗の期待値として次の積分で与えられます。
\[ \bar{v} = \int_0^\infty v f(v) dv \]
※期待値は確率変数に確率分布を掛けて和を計算することで得られます。
式(9)では \(v\) が確率変数、\(f(v)dv\) が確率分布に相当し、和は積分に置き換わっています。
式(9)中の \(f(v)\) を式(7)で置き換えたものが次式です。
\[ \bar{v} = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \left( \frac{m}{k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} \int_0^\infty v^3 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} dv \]
式(10)中の積分は ガウス積分によって
\[ \int_0^\infty v^3 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} dv = \frac{1}{2} \left(\frac{2k_\text{B}T}{m}\right)^2 \]
となるので、結果 分子の平均速度は次の様になることが分かります。
\[ \bar{v} = \sqrt{\frac{8k_\text{B}T}{\pi m}} \]
二乗平均速度
分子の二乗平均速度 \(\bar{v^2}\) は次式で与えられます。
\[ \bar{v^2} = \int_0^\infty v^2 f(v) dv \]
二乗速度 \(v^2\) の期待値を求めれば良いので確率 \(f(v)dv\) との積を考えて和を計算します。
そして確率分布式(7)を代入したものが次式になります。
\[ \bar{v^2} = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \left( \frac{m}{k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} \int_0^\infty v^4 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} dv \]
式(14)中の積分は、ガウス関数を用いれば以下の計算結果を得ることができます。
\[ \int_0^\infty v^4 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} dv = \frac{3\sqrt{\pi}}{8} \left(\frac{2k_\text{B}T}{m}\right)^\frac{5}{2} \]
したがって、式(15)を式(14)に戻せば二乗平均速度が求められます。
\[ \begin{align*} \bar{v^2} &= \frac{3k_\text{B}T}{m} \\[15pt] \therefore ~ \sqrt{\bar{v^2}} &= \sqrt{\frac{3k_\text{B}T}{m}} \end{align*} \]
ここで式(8)に戻ると…
\[ \frac{1}{2} m\bar{v^2} = \frac{3}{2}k_\text{B}T \]
式中に含まれる \(\bar{v^2}\) が実は二乗平均速度になっています。
式(8)を速度について解いたとき、式(16)が得られることを確認できます。
最確速度
最確速度 \(v_\text{m}\) とは、最も高い確率で出現する速度のことです。
\(v_\text{m}\) は期待値からの計算ではなく、関数の最大最小問題から求めることができます。
確率分布式(7) \(f(v)\) の微分を考え、次の関係を満たす速度 \(v_\text{m}\) を計算すれば良いです。
\[ \frac{df(v_\text{m})}{dv} = 0 \]
実際に \(f(v)\) の微分は
\[ \frac{df(v)}{dv} = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \left( \frac{m}{k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} v \left( 2 - \frac{m}{k_\text{B}T} v^2 \right) e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} \]
となるので、式(17)を満たす速度は直ちに
\[ v_\text{m} = \sqrt{\frac{2k_\text{B}T}{m}} \]
であることが分かります。
\(v_\text{m} = 0\) のときも式(17)を満たしますが、グラフの概形を考慮しても最も確率が高い状態ではないことは明確です。
1次元マクスウェル・ボルツマン分布
1次元マクスウェル・ボルツマン分布の導出
マクスウェルボルツマン分布式(6)は、3次元空間中を運動する分子について速度の大きさを記述したものです。
ここからは \(x\) 方向、\(y\) 方向、\(z\) 方向の速度成分 \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) がどの様な値を取りうるか、その確率分布を求めていきます。
ポイントは \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) を3つの軸にもった空間を考えることです。これを「位相空間」と呼びますが、用語は紹介のみで留めておきます。
改めて 分子が \(v\) の速度を持つときの確率は、確率密度関数 \(f(v)\) に微少量 \(dv\) を掛けた次式で表されます。
\[ f(v) dv \]
一方で 分子が \(x\), \(y\), \(z\) それぞれの方向に \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) の速度を持つときの確率は、確率密度関数を \(f_x(v_x)\), \(f_y(v_y)\), \(f_z(v_z)\) とすると
\[ \begin{align*} \text{eq(21.1) : } ~~~~~ f_x(v_x) dv_x \\[15pt] \text{eq(21.2) : } ~~~~~ f_y(v_y) dv_y \\[15pt] \text{eq(21.3) : } ~~~~~ f_z(v_z) dv_z \end{align*} \]
で与えられることになります。
式(20)および式(21)が、\(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) を3つの軸に持つ空間内において何を表しているのか 説明しましょう。
早速次の図を見ていただくことにして…
これは \(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) の球殻 ( 球面 ) を表しています。
球殻上に存在する点 \((v_x, ~ v_y, ~ v_z)\) は、速度の大きさが \(v\) になります。
ここで式(20)にもどって、\(f(v)dv\) は分子の速度の大きさが \(v\) になる確率を表すのでした。
何が言いたいかと言うと… \(f(v)dv\) は \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) 空間における半径 \(v\) の球殻上に点 \((v_x, ~ v_y, ~ v_z)\) が位置する確率を意味しているということです。
今度は式(21)が \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) 空間内でどのように表現されるか比較してみましょう。
3つの速度成分が \(v_x\) かつ \(v_y\) かつ \(v_z\) となる確率を考え、その点 \((v_x, ~ v_y, ~ v_z)\) を3次元空間で表すことを行います。
ここで \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) はそれぞれ独立であることから、求める確率は \(f_x(v_x)dv_x\), \(f_y(v_y)dv_y\), \(f_z(v_z)dv_z\) の積で与えることが分かります。
\[ f_x(v_x) dv_x \times f_y(v_y)dv_y \times f_z(v_z)dv_z \\[15pt] = f_x(v_x) f_y(v_y) f_z(v_z) ~ dv_x dv_y dv_z \]
では、3つの速度成分が \(v_x\) かつ \(v_y\) かつ \(v_z\) となる確率を3次元空間で表すとどの様になるでしょうか。
速度が \(v\) になる状況は先に示した通り球殻 ( 球面 ) を用いて表現することができました。
それは \(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) の関係を満たしさえしていれば、\(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) は自由に決めることができるからです。
しかし今回は \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) のどれもが定まっているので、空間内では点として表されることになります。
点 \((v_x, ~ v_y, ~ v_z)\) を取り囲む微小体積を \(dv^3\) とします。
またこの微小体積は \(dv_x dv_y dv_z\) に等しく、式(22)を次のように書き換えることができます。
\[ f_x(v_x) f_y(v_y) f_z(v_z) dv^3 \]
さて、ここまでの内容を踏まえて式(20) \(f(v)dv\) と
式(23) \(f_x(v_x) f_y(v_y) f_z(v_z) dv^3\) の間にどのような関係が成立しているかを考えましょう。
状況をグラフ化したものを次に示します。
これは先に示した図2つを同時に考えたものになります。
つまり、3つの速度成分が \(v_x\) かつ \(v_y\) かつ \(v_z\) であることに加えて \(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) を満たす場合です。
言い換えると、球殻 ( 球面 ) 上の ある1点を指す確率であり、更に次にようにも解釈できて…
分子が速度 \(v\) となる \(\mathrm{g}\) 個に縮退した状態の中から、1つの状態を選択する確率。
その確率が 式(23)と等しくなるでしょう?という主張です。それが次式。
\[ \frac{1}{\mathrm{g}} \times f(v)dv = f_x(v_x) f_y(v_y) f_z(v_z) dv^3 \]
また縮退度 \(\mathrm{g}\) は式(2)について次の極限を考えたもので
\[ \begin{align*} \text{eq(2) : } & \mathrm{g}_i = \frac{4\pi v_i^2 \Delta v_i}{\Delta v^3} \\[15pt] \rightarrow ~~~ & \mathrm{g} = \frac{4\pi v^2 dv}{dv^3} ~~~ \begin{align*} \left( ~ \substack{\displaystyle \Delta v_i \rightarrow 0 \\[5pt] \displaystyle \Delta v^3 \rightarrow 0} ~ \right) \end{align*} \end{align*} \]
式(25)を式(24)に代入すると \(dv\) および \(dv^3\) が消去され、次の関係を得ることができます。
\[ \frac{f(v)}{4\pi v^2} = f_x(v_x) f_y(v_y) f_z(v_z) \]
そのまま確率分布式(7) \(f(v)\) を式(26)に代入して整理したものが次式です。
\[ \begin{align*} f_x(v_x) f_y(v_y) f_z(v_z) &= \frac{1}{4\pi v^2}\sqrt{\frac{2}{\pi}} \left( \frac{m}{k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} v^2 e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} \\[15pt] &= \left( \frac{m}{2\pi k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} e^{-\frac{mv^2}{2k_\text{B}T}} \\[15pt] &= \left( \frac{m}{2\pi k_\text{B}T} \right)^{\frac{3}{2}} e^{-\frac{mv_x^2}{2k_\text{B}T}} e^{-\frac{mv_y^2}{2k_\text{B}T}} e^{-\frac{mv_z^2}{2k_\text{B}T}} \end{align*} \]
ここで \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) が独立であることを先で述べましたが、この事からも分かる通り \(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) の確率分布は全て等しいと考えられます。
したがって、確率密度関数 \(f_x(v_x)\), \(f_y(v_y)\), \(f_z(v_z)\) はそれぞれ
\[ \left\{ \begin{align*} ~ f_x(v_x) = \left( \frac{m}{2\pi k_\text{B}T} \right)^{\frac{1}{2}} e^{-\frac{mv_x^2}{2k_\text{B}T}} \\[15pt] ~ f_y(v_y) = \left( \frac{m}{2\pi k_\text{B}T} \right)^{\frac{1}{2}} e^{-\frac{mv_y^2}{2k_\text{B}T}} \\[15pt] ~ f_z(v_z) = \left( \frac{m}{2\pi k_\text{B}T} \right)^{\frac{1}{2}} e^{-\frac{mv_z^2}{2k_\text{B}T}} \end{align*} \right. \]
となります。
1次元マクスウェル・ボルツマン分布のグラフ
1次元マクスウェル・ボルツマン分布の確率密度関数 \(f_x(v_x)\) の概形を確認してみましょう。
全体としては釣鐘型の分布になります。
負の値は \(x\) 軸とは逆向きの方向に運動する場合の速度を表しています。
1次元マクスウェル・ボルツマン分布から分かる速度の期待値
前節で得られた1次元方向に関する確率密度関数を用いて、速度の期待値を求めてみましょう。
計算方法は既に3次元マクスウェル・ボルツマン分布の場合に示したものと同様に積分を行います。
ただし、3次元の場合とは積分区間が異なる点に注意する必要があります。
3次元マクスウェル・ボルツマン分布では、速度の大きさについて着目しており \([0, ~ \infty)\) で積分を実行しています。
一方で 1次元マクスウェル・ボルツマン分布では、分子は負の速度も持ち得るため \((-\infty, ~ \infty)\) で積分を実行しなければなりません。
平均速度
分子の \(x\) 方向の平均速度 \(\bar{v_x}\) を計算しましょう。
\[ \begin{align*} \bar{v_x} &= \int_{-\infty}^\infty v_x f_x(v_x) dv_x \\[15pt] &= \left( \frac{m}{2\pi k_\text{B}T} \right)^{\frac{1}{2}} \int_{-\infty}^\infty v_x e^{-\frac{mv_x^2}{2k_\text{B}T}} dv_x \end{align*} \]
積分の計算を行うと
\[ \int_{-\infty}^\infty v_x e^{-\frac{mv_x^2}{2k_\text{B}T}} dv_x = \frac{2k_\text{B}T}{m} \]
となるので、したがって式(30)を式(29)に戻せば平均速度が得られます。
\[ \bar{v_x} = \sqrt{\frac{2k_\text{B}T}{\pi m}} \]
また当然ですが、\(y\) 方向および \(z\) 方向の平均速度も同様の表式になります。
\[ \bar{v_x} = \bar{v_y} = \bar{v_z} = \sqrt{\frac{2k_\text{B}T}{\pi m}} \]
二乗平均速度
分子の \(x\) 方向の二乗平均速度 \(\bar{v_x^2}\) を計算します。
\[ \begin{align*} \bar{v_x^2} &= \int_{-\infty}^\infty v_x^2 f_x(v_x) dv_x \\[15pt] &= \left( \frac{m}{2\pi k_\text{B}T} \right)^{\frac{1}{2}} \int_{-\infty}^\infty v_x^2 e^{-\frac{mv_x^2}{2k_\text{B}T}} dv_x \end{align*} \]
積分の計算を行うと
\[ \int_{-\infty}^\infty v_x^2 e^{-\frac{mv_x^2}{2k_\text{B}T}} dv_x = \frac{\sqrt{\pi}}{2} \left(\frac{2k_\text{B}T}{m}\right)^\frac{3}{2} \]
となるので、式(33)を式(32)に戻せば二乗平均速度が得られます。
\[ \begin{align*} \bar{v_x^2} &= \frac{k_\text{B}T}{m} \\[15pt] \therefore ~ \sqrt{\bar{v_x^2}} &= \sqrt{\frac{k_\text{B}T}{m}} \end{align*} \]
また \(y\) 方向、\(z\) 方向の二乗平均速度も同様の表式になります。
\[ \bar{v_x^2} = \bar{v_y^2} = \bar{v_z^2} = \frac{k_\text{B}T}{m} \]
ここで、3次元マクスウェル・ボルツマン分布から計算した二乗平均速度 \(\bar{v^2}\) を再掲すると
\[ \bar{v^2} = \frac{3k_\text{B}T}{m} \]
でしたが、式(16)と式(35)の結果と合わせると次の関係が得られます。
\[ \bar{v^2} = \bar{v_x^2} + \bar{v_y^2} + \bar{v_z^2} \]
本題はここまで ですが、最後に次節で重要な概念を説明して終了することにします。
エネルギー等分配則
エネルギー等分配則とは、1つの運動様式に対して平均 \(\frac{1}{2}k_\text{B}T\) のエネルギーが割り当てられるという法則です。
3次元空間内を運動する分子1個について、平均運動エネルギーは式(8)で示した気体分子運動論の結果から
\[ \frac{1}{2} m\bar{v^2} = \frac{3}{2} k_\text{B}T \]
であり、これは式(16)を変形しても得られるのでした。
ここで式(8)に式(36)の関係を代入してみましょう。
\[ \frac{1}{2} m\bar{v_x^2} + \frac{1}{2} m\bar{v_y^2} + \frac{1}{2} m\bar{v_z^2} = \frac{3}{2} k_\text{B}T \]
分子の \(x\), \(y\), \(z\) 方向における平均運動エネルギーの和が \(\frac{3}{2} k_\text{B}T\) になることが分かります。
\(v_x\), \(v_y\), \(v_z\) がそれぞれ独立に振る舞うことから期待できるのは、各方向の平均運動エネルギーが互いに等しく次の関係にあることです。
\[ \frac{1}{2}m \bar{v_x^2} = \frac{1}{2}m \bar{v_y^2} = \frac{1}{2}m \bar{v_z^2} = \frac{1}{2} k_\text{B}T \]
実際に、式(38)の関係は成立しており、それは式(35)から次の計算によって確認することができます。
\[ \begin{align*} \text{eq(35) : } ~~~ &\bar{v_x^2} = \bar{v_y^2} = \bar{v_z^2} = \frac{k_\text{B}T}{m} \\[15pt] &\frac{1}{2} m\bar{v_x^2} = \frac{1}{2} m\bar{v_y^2} = \frac{1}{2} m\bar{v_z^2} = \frac{1}{2} k_\text{B}T ~~~ \big( ~ \text{ : eq(38)} ~ \big) \end{align*} \]
以上の計算から、分子の \(x\), \(y\), \(z\) 方向の平均運動エネルギーが等しく \(\frac{1}{2} k_\text{B}T\) に割り当てられる事を理解できるでしょう。
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今年で物理化学歴11年目になります。
大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。