熱平衡とそれを記述する状態量 ( 示量性・示強性の解説も )
熱力学系が平衡状態に達しているとき、それを熱平衡状態にあると言い、熱力学系の温度 \(T\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\) などの変数が時間変化しない状態を指します。
当ページでは熱平衡状態の理解をはじめ、それを記述する状態量の説明と、状態量には2種類に区分されることを示していきます。
熱平衡状態とは
熱平衡状態とは、熱力学系が平衡状態にあることを指します。
また平衡状態とは一見して系に変化が見られないバランスの取れた状態なので、熱力学系を特徴づける温度 \(T\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\) が短い時間内に急激な変化を起こしていない状態であると理解できます。
実際は…系を微視的に見たとき各所で温度や物質の密度など揺らぎがあります。しかし熱力学では系を巨視的に扱うことを前提とし、一見して様子に変化が見られなければ 熱力学理論を適用して系の状態を記述できてしまいます。
逆に、熱力学系の変数が短い時間内に急激に変化を起こしているとき、つまり目視でも系の状態に変化が見られるような場合は 熱平衡状態ではなく、非平衡状態と呼ばれます。
例えば次図のような 気体が封入されたピストン付きの容器を熱力学系として考えたとき、ピストンを動かすと容器内部で気体が複雑に流動するため、系の温度、体積は急激に変化を起こします。つまり非平衡状態となる訳です。
平衡状態にあった熱力学系に刺激を加えたとき 非平衡状態となりましたが、逆に非平衡状態の系が 平衡状態になる状況もあり得ます。
事実、十分に長い時間 熱力学系に外から刺激を与えることなく静置させたとき、再度熱平衡状態に落ち着きます。以降はこれを熱力学の出発点となる経験的事実として認めることにしましょう。
熱平衡状態の記述と状態量
熱力学の優れたところは、たった数個の変数によって熱平衡状態が一意に決定されることです。
実際に 温度 \(T\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\) の熱力学系が 熱平衡状態 にあるとき次の式(1)のように記述できます。
\[ (T; ~ V, ~ n) \]
これは本当に驚くべき事で、なぜなら系を構成する物質の実態は無数の微粒子の集合体であり、古典力学的に系の状態を説明をしようとすると \(10^{23}\) 個以上もの変数を取り扱うことになるからです。
では一例として 実際に 3つの変数で状態を記述できるのか 理想気体で確認してみましょう。
理想気体では状態方程式 \(PV = nRT\) が成立しますが、圧力 \(P\) について解くと 温度、体積、物質量の関数として次のように記述できることが分かります。
\[ P = P(T; ~ V, ~ n) = \frac{nRT}{V} \]
このような熱平衡状態において定義される物理量には名称がついており状態量または熱力学関数と呼ばれます。
逆に言うと、状態量は熱平衡状態でなければ定義されません。もう少しイメージを理解するために次の章で説明を続けます。
熱平衡状態にない系に熱力学は適用できない
熱力学では系の状態を数少ない変数によって記述できる優れた点がある一方で、熱平衡状態でなければ熱力学の理論が適用できないという欠点もあります。
熱平衡状態ではない⋯つまり非平衡状態 ( non-equilibrium ) においては熱力学は刃が立たない訳です。
例えば 容器に封入された気体が非平衡状態にあるとき、気体は容器内部で不均一になります。
平衡状態では系全体が均一であり 容器内のどこを見ても同じ状態であるため \((T; ~ V, ~ n)\) のように少ない変数での記述が可能です。
しかし非平衡状態はそうはいきません。系は不均一なので、仮に式(1)と同じように系の状態を表現できたとしても⋯
\[ \big( ~ T(\boldsymbol{r}_1, ~ t), ~ T(\boldsymbol{r}_2, ~ t), ~ T(\boldsymbol{r}_3, ~ t), ~ \cdots, T(\boldsymbol{r}_N, ~ t) ; ~ V, ~ n ~ \big) ~~~ (?) \]
といった具合に、容器のあらゆる位置 \(\boldsymbol{r}_i ~ ( ~ i = 1, 2, \cdots ~ )\) における温度情報が必要になってきます⋯。
加えて非平衡状態にある系は平衡状態に向かって変化していくことからも分かる通り、時間 \(t\) に依存するため もはや取り扱いが困難です。
以上のように、熱力学にも限界があることを理解しておく必要があります。
示量性と示強性
状態量には、示量性と示強性という2種類に区分することができます。
熱平衡状態 \((T; ~ V, ~ n)\) においては、示量性状態量をセミコロン「 ; 」の右側に、示強性状態量を左側に記述します。
要するに、温度 \(T\) は示強性状態量、体積 \(V\)、物質量 \(n\) は示量性状態量です。
示量性と示強性の違いは次のように説明されます。
日本機械学会誌 やさしい熱力学
- 示量性
- 物質の量に依存して量が決定する性質
- 示強性
- 物質の量に依存せずに量が決定する性質
ポイントは系のサイズに対してどの様な依存性を示すか。系の大きさを変化させると、示量性状態量はそれに伴って変化する一方で、示強性状態量は一定の値を示します。
以下では具体的な例を交えながら、示量性状態量と示強性状態量のイメージと数学的性質について説明していきます。
示量性状態量
示量性状態量は物質の量に依存して大きさが変化する状態量であり、その例として体積 \(V\) や物質量 \(n\) が挙げられます。
次のような仕切りで仕切られた容器の両方に \((V, ~ n)\) の気体を封入しておき、仕切りを静かに取り除く操作を考えてみましょう。
ただし温度と圧力は一定としますが、このように用意する部分系すべてにおいて同じ条件・状態でなければならないことに注意してください。
仕切りを取り除いた後の気体の体積と物質量は次のように記述できます。
\[ (2V, ~ 2n) \]
この操作はちょうど系を2倍にスケールアップすることと同じです。
数学的には \(2(V, ~ n) = (2V, ~ 2n)\) と記述が可能で、一般化した \(\lambda\) 倍のスケールアップも次の関係が成立しています。
\[ \lambda (V, ~ n) = (\lambda V, ~ \lambda n) \]
しかしながら、次のように一方の示量性状態量だけに定数 \(\lambda\) が掛かっているときは共通因数としてまとめられないことに注意してください。
\[ \begin{align*} (\textcolor{red}{\lambda} V, ~ n) ~ \char`≠ ~ \lambda (V, ~ n) \\[15pt] (V, ~ \textcolor{red}{\lambda} n) ~ \char`≠ ~ \lambda (V, ~ n) \end{align*} \]
示強性状態量
示強性状態量は物質の量には依存せず大きさが決まる状態量であり、その例として圧力 \(P\) や温度 \(T\) が挙げられます。
例えば仕切りで仕切られた容器の両方に \(T; ~ V, ~ n\) の気体を封入し、仕切りを静かに取り除いて系を2倍にスケールアップする操作を考えます。
圧力一定の条件下、気体の体積は \(2V\)、物質量は \(2n\) となるとき、温度も \(2T\) のように変化するかと言うと これは誤りです。
理想気体の状態方程式に当てはめて考えてみましょう。
仕切りを取り除いた後の気体の温度を \(\theta\) とします。仕切りを取り除く前の気体について \(PV = nRT\) が成立していることに留意して温度 \(\theta\) を求めると次のようになります。
\[ \theta = \frac{P \cdot 2V}{2n \cdot R} = \frac{PV}{nR} = T \]
つまり 理想気体において系をスケールアップさせたとしても温度は変化しないという結論が導かれます。
上記の内容を一般化して、系を \(\lambda\) 倍してスケールアップしたときに成立する関係式を次に示します。
\[ (T; ~ \lambda V, ~ \lambda n) = \lambda (T; ~ V, ~ n) \]
熱力学が教えてくれること
熱力学の理論は、基本的には系の平衡状態にしか適用できません。つまり系が静置されて一見様子に変化がない状況からしか有益な情報を得られない訳です。
しかしながら系の状態が変化している最中についても情報が得たいと考えるのは自然な流れではないでしょうか?
熱力学は限定された状況でしか利用できない不便な理論のように思えますが そうではありません。
実は平衡状態を崩すことなく系の状態を変化させることが可能です。
詳しくは以下のページを参照してください。