ギブス自由エネルギー \(G\) が化学ポテンシャル \(\mu\) と物質量 \(n\) の積 ( \(G = n \mu\) ) で記述できることに疑問を抱いたことは有るでしょうか。
それらしく急に用いられることがあるのですが、その行間を埋めることがこのページの目的です。
実は数学的な関係から導かれるもので、それをオイラーの関係式と呼びます。
オイラーの関係式
示量変数の組 \(\boldsymbol{X} = (x_1, ~ x_2, ~ \cdots )\) および示強変数の組 \(\boldsymbol{Y} = (y_1, ~ y_2, ~ \cdots )\) を持つ物理量 \(A(\boldsymbol{Y}; ~ \boldsymbol{X})\) を考えます。
\(A\) は示量性があるとし、示量変数を \(\lambda\) 倍に拡大したものは、拡大前の \(A\) を \(\lambda\) 倍したものに等しくなります。
\[ A(\boldsymbol{Y}; ~ \lambda \boldsymbol{X}) = A(\boldsymbol{Y}; ~ \lambda x_1, ~ \lambda x_2, ~ \cdots ) = \lambda A(\boldsymbol{Y}; ~ \boldsymbol{X}) \]
ここで「倍率 \(\lambda\)」を \(1 + \Delta \lambda\) と置いてみましょう。すると式(1)は…
\[ \begin{gather*} (1 + \Delta \lambda) A(\boldsymbol{Y}; ~ \boldsymbol{X}) = A\big(\boldsymbol{Y}; ~ (1 + \Delta \lambda) x_1, ~ (1 + \Delta \lambda) x_2, ~ \cdots \big) \\[15pt] \Rightarrow ~ A(\boldsymbol{Y}; ~ \boldsymbol{X}) + A(\boldsymbol{Y}; ~ \boldsymbol{X}) \Delta \lambda = A\big(\boldsymbol{Y}; ~ x_1 + x_1 \Delta \lambda , ~ x_2 + x_2 \Delta \lambda, ~ \cdots \big) \end{gather*} \]
となります。
更に式(2)右辺をテイラー1次近似します。
\[ \begin{align*} &A\big(\boldsymbol{Y}; ~ x_1 + x_1 \Delta \lambda , ~ x_2 + x_2 \Delta \lambda, ~ \cdots \big) \\[15pt] &\simeq A(\boldsymbol{Y}; ~ x_1, ~ x_2, ~ \cdots) + \left( \frac{\partial A}{\partial x_1} \right) x_1 \Delta \lambda + \left( \frac{\partial A}{\partial x_2} \right) x_2 \Delta \lambda + \cdots \\[15pt] &= A(\boldsymbol{Y}; ~ \boldsymbol{X}) + \left\{ \left( \frac{\partial A}{\partial x_1} \right) x_1 + \left( \frac{\partial A}{\partial x_2} \right) x_2 + \cdots \right\} \Delta \lambda \end{align*} \]
\(\Delta \lambda\) を小さくしていけば、近似の差は埋まって次第に等号に近づきます。
その条件の元で式(3)を式(2)に戻して整理すると、次式を得ることができます。
\[ A(\boldsymbol{Y}; ~ \boldsymbol{X}) = x_1 \left( \frac{\partial A}{\partial x_1} \right) + x_2 \left( \frac{\partial A}{\partial x_2} \right) + \cdots \]
ここで導かれた式(4)がオイラーの関係式です。
オイラーの関係式の例
ギブス自由エネルギー
オイラーの関係式をギブス自由エネルギーに適用すれば、次の関係を導くことができます。
\[ G = n \mu \]
完全な熱力学関数としてのギブス自由エネルギーは、変数に温度、圧力、物質量をもった \(G(T, ~ P; ~ n)\) という表式です。
示量変数は物質量 \(n\) のみなので、直ちに
\[ \begin{align*} G(T, ~ P; ~ n) &= n \left( \frac{\partial G}{\partial n} \right)_{T, ~ P} \\[20pt] &= n \mu(T, ~ P; ~ n) \end{align*} \]
となることが分かります。
ヘルムホルツ自由エネルギー
オイラーの関係式をヘルムホルツ自由エネルギー \(F(T; ~ V, ~ n)\) に適用してみましょう。
示量変数は体積 \(V\) および物質量 \(n\) の2つがあるので、
\[ \begin{align*} F(T; ~ V, ~ n) &= V \left( \frac{\partial F}{\partial V} \right)_{T, ~ n} + n \left( \frac{\partial F}{\partial n} \right)_{T, ~ V} \\[20pt] &= -VP(T; ~ V, ~ n) + n \mu(T; ~ V, ~ n) \\[20pt] \therefore ~ F &= -PV + n\mu \end{align*} \]
となります。
内部エネルギー
オイラーの関係式を完全な熱力学関数としての自由エネルギー \(U(S, ~ V, ~ n)\) に適用してみましょう。
内部エネルギーがもつ変数3つは全て示量変数であるため、
\[ \begin{align*} U(S, ~ V, ~ n) &= S \left( \frac{\partial U}{\partial S} \right)_{V, ~ n} + V \left( \frac{\partial U}{\partial V} \right)_{S, ~ n} + n \left( \frac{\partial U}{\partial n} \right)_{S, V} \\[20pt] &= ST(S, ~ V, ~ n) - VP(S, ~ V, ~ n) + n\mu(S, ~ V, ~ n) \\[20pt] \therefore ~ U &= TS - PV + n\mu \end{align*} \]
となります。