状態方程式
ボイルの法則、シャルルの法則、アボガドロの法則。これら3つは気体が従う重要な法則です。
気体の圧力、体積、温度、物質量の間に成立する関係を記述することが可能ですが、適用条件があるため注意して利用しなければ誤った結論を導いてしまう恐れがあります。
しかし上記3つの法則を1つにまとめた関係式である理想気体の状態方程式を導入することで、気体の圧力、体積、温度、物質量の依存関係を理解しやすくなります。
理想気体の状態方程式
気体が理想的に振る舞うとき、ボイルの法則、シャルルの法則、アボガドロの法則を1つにまとめた理想気体の状態方程式を適用することができます。
気体の状態を圧力 \(P\)、体積 \(V\)、温度 \(T\)、物質量 \(n\) で表すとき、理想気体の状態方程式は次式で与えられます。
\[ PV = nRT \]
ここで式(1)中に現れる \(R\) は気体定数で、下記の値をとることが知られています。
\[ R = 8.31451 ~ [\text{Pa⋅m}^3\text{/mol⋅K}] \]
式(2)で与えられる気体定数の次元 ( 単位 ) に注意してください。
ここでは気体の状態を表す物理量の次元を圧力 \(P\) は \([\text{Pa}]\) 、体積 \(V\) は \([\text{m}^3]\)、温度 \(T\) は \([\text{K}]\)、物質量 \(n\) は \([\text{mol}]\) に取っていますが、別の次元を利用したときは定数値の値も変化してしまいます。
例えば、気体の体積の次元に \([\text{L}]\) を使用した場合、\(1 ~ [\text{L}] = 10^{-3} ~ [\text{m}^3]\) として換算する必要があるので、気体定数は \(R = 8.31451 \times 10^3 ~ [\text{Pa⋅L/mol⋅K}]\) として扱わなければなりません。
繰り返しになりますが、上記 理想気体の状態方程式は、気体が理想的に振る舞うときにのみ適用できる関係式です。
理想気体は常に理想的に振る舞うため 何も注意する必要はありませんが、実在する気体は式(1)が常に成立するとは限りません。
では、どういった条件であれば実在する気体が理想的に振る舞うのか? 事実のみを示すと下記条件のとおりです。
- 低圧条件 または
- 高温条件
低圧条件・高温条件とは言うものの、室温 25 \({}^\circ\text{{C}}\)、大気圧程度であれば気体は理想的に振る舞うことが多いです。ただ、実際に理想とのずれを測定しておくに越したことはありません。
なぜ上記の条件では実在する気体でも理想的に振る舞い 理想気体の状態方程式が成立するのでしょうか?
それは、すべての物質が「分子」という細かな粒子からなる事実に基づきます。
詳細は「実在気体の状態方程式」、「分子の実在性」を参照ください。
気体がしたがう3つの法則
気体がしたがう3つの法則、ボイルの法則、シャルルの法則、アボガドロの法則を簡潔にまとめて紹介します。
ボイルの法則 : 気体の圧力と体積の関係
ボイルの法則は気体の圧力 \(P\) と体積 \(V\) の関係を表し 次式で与えられます。
\[ PV = \text{Const.} \]
上図は式(3)をグラフとして表したもので、気体の圧力が 気体の体積に反比例する様子が視覚的に分かります。
ただし、ボイルの法則が成立するためには気体の温度と物質量が一定の条件でなければならないことに注意してください。
具体的な状況を考えてみましょう。例えば、周囲が一定の温度に保たれた密閉容器を用意し 気体を封入しておきます。
容器に取り付けたピストンを押し込み容積を小さくしていくと、次第に手応えが強くなりピストンが逆に押し返されることを確認できるでしょう。つまり気体の圧力が大きくなっている訳です。
それも⋯圧縮初期では手応えは小さく、更に圧縮するには大きな力が必要になります。
シャルルの法則 : 気体の温度と体積の関係
シャルルの法則は気体の温度 \(T\) と体積 \(V\) の関係を表し 次式で与えられます。
\[ \frac{V}{T} = \text{Const.} \]
上図は式(4)をグラフとして表したもので、気体の体積が 気体の温度に比例する様子が視覚的に分かります。
ただし、シャルルの法則が成立するためには気体の圧力と物質量が一定の条件でなければならないことに注意してください。
シャルルの法則を理解するためには、空気を封入した風船をイメージするのが良いでしょう。
風船は、温度が高いと膨張し、逆に温度が低いと縮みます。
また式(4)では1つ注意しなければならないことがあります。それが温度 \(T\) の次元であり、一般的なセルシウス温度 \([{}^\circ\text{{C}}]\) とは異なり、絶対温度 \([\text{K}]\) で定義されます。
絶対温度 \(T\) とセルシウス温度 \(t\) は次式によって相互に変換が可能です。
\[ T = t + 273.15 \]
絶対温度の特徴は常に正の値を取ることです。もし絶対温度が負の値をとる場合、シャルルの法則 ( 式(4) ) から直ちに 気体が負の体積を持つという現実的には考えられない状況を許容することになります。
余談ですが、\(T = 0 ~ [\text{K}]\) つまり \(t = -273.15 ~ [{}^\circ\text{{C}}]\) を絶対零度と呼びます。
アボガドロの法則 : 気体の体積と物質量の関係
アボガドロの法則は気体の体積 \(V\) と物質量 \(n\) の関係を表し 次式で与えられます。
\[ \frac{V}{n} = \text{Const.} \]
式(6)で記述される通り、気体の体積は 気体の物質量に比例して変化します。
ただし、アボガドロの法則が成立するためには気体の圧力と温度が一定の条件でなければならないことに注意してください。
この条件の下で2つの容器に同じ気体を封入し 互いに体積が \(V\) になった状態で用意しておきます。それらを混合すると気体全体が占める体積は \(2V\) となることを確認できます。これがアボガドロの法則です。
理想気体の状態方程式を導出
理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) が成立することを確認します。
改めて⋯理想気体の状態方程式は、ボイルの法則、シャルルの法則、アボガドロの法則を統合した、理想気体の状態を簡潔に記述できる関係式です。
そして、気体の状態を変化させるときに、どの変数を固定すれば、何が従属変数として振る舞うのか、といった問題も整理して理解できます。
ボイルの法則、シャルルの法則、アボガドロの法則は次のとおりです。
- ボイルの法則 : \(PV = \text{Const.}\)
- シャルルの法則 : \(\frac{V}{T} = \text{Const.}\)
- アボガドロの法則 : \(\frac{V}{n} = \text{Const.}\)
さて、気体の体積 \(V\) は、圧力 \(P\) に反比例し、温度 \(T\)、物質量 \(n\) に比例するとのことなので、次の関係が成立していると言えます。
\[ V \propto \frac{nT}{P} \]
ここで「 \(\propto\) 」は左辺と右辺に比例関係があることを表す記号です。
比例定数を \(R\) として式(7)を次のように書き直します。
\[ \begin{align*} \text{eq(8.1) : } &~~~ && V &&= R \frac{nT}{P} \\[15pt] \text{eq(8.2) : } &~~~ \therefore ~ &&PV &&= nRT \end{align*} \]
無論、比例定数 \(R\) とは 気体定数のことです。
ちなみに気体定数の値は \(8.31451 ~ [\text{Pa・m}^3\text{/mol・K}]\) と定められていますが、これは \(1 ~ [\text{mol}]\) の気体が標準状態 \(25 ~ [{}^\circ\text{{C}}]\), \(1.013 \times 10^5 ~ [\text{Pa}]\) にあるとき、体積が \(24.8 ~ [\text{L}]\) であることを利用すれば あとは理想気体の状態方程式(8.2)に当てはめて計算することでその事実を確認できるでしょう。
また理想気体の状態方程式の優れた点は、気体の種類に依存せず常に成立することです。
もし気体の状態が気体の種類に依存するなら、気体定数 \(R\) は気体ごとに異なる値を取る必要があったでしょう。すると \(PV = nRT\) という簡潔な関係式としてまとめることが困難だったかも知れませんね。
発展 : 状態方程式
理想気体の状態方程式は「理想的」に振る舞う「気体」という限定的な対象にしか利用できません。
熱力学では より普遍的に成立するような物質の状態を記述する関係を導くことを考えます。つまり理想気体の状態方程式は、状態方程式の具体的な形式の1つでしか無いという訳です。
一般に状態方程式は、物質の状態によって一意に定まる性質があります。具体的には、物質量 \(n\) で体積 \(V\) をもつ物質が、温度 \(T\) の状態にあるとき、物質が示す圧力 \(P\) は \(P(T; ~ V, ~ n)\) という一価関数として表されます。
\[ P = P(T; ~ V, ~ n) \]
一価関数とは解が1つの関数という意味であり、例えば 物質量 \(n\) で体積 \(V\) をもつ気体が、温度 \(T\) の状態にあるとき、内部で2つ以上の圧力を持つなどということは起こり得ず、必ず1つの圧力を示します。