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【実在気体の状態方程式】
圧縮率因子による非理想性の説明とファンデルワールス方程式

実在する気体は理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) に厳密に従わず 理想からのズレを生じてしまいます。

当ページでは実在気体の挙動を上手く説明可能な方程式、特にファンデルワールス方程式について解説していきます。

■このページで分かる内容のまとめ■

実在する気体は大きさをもつ分子から構成されるため、その挙動は理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) から幾分かズレを生じますが、補正を行うことにより挙動を説明できる方程式を作ることが可能です。

ファンデルワールス方程式はその一例であり次式で与えられます。

ファンデルワールス方程式

\[ P = \frac{nRT}{V - nb} - a \left( \frac{n}{V} \right)^2 \]

ここで \(a\) は分子間相互作用パラメータ、\(b\) は1分子の体積を表しています。

実在気体

実在する気体は理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) を完全に満たすことはありません。

詳細は後に譲りますが、実在気体は分子で構成されており、分子には大きさがある事と分子間で相互に力を及ぼし合う事が非理想性の原因とされています。

  • 分子は大きさ ( 体積 ) をもつ
  • 分子間で相互作用がはたらいている

また ここでは事実のみ述べますが、実在気体でも低圧条件または高温条件下であれば理想的挙動を示すため、理想気体の状態方程式が全くの利用価値が無いということではない点に注意です。

実在気体の理想からのズレを数値化する : 圧縮率因子

実在気体の非理想性を表現するのに、次の圧縮率因子 \(Z\) を導入して補正を行います。

式(1) : 圧縮率因子

\[ Z \equiv \frac{PV}{nRT} \]

理想気体の場合は \(Z = 1\) であり、式(1)から理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) が得られます。

実在気体の非理想性は物質ごとに異なる挙動を示します。

つまり同じ温度・圧力条件下であっても扱う物質によって圧縮率因子 \(Z\) の取る値が異なります。

次に示すのはビリアル展開と呼ばれる圧縮率因子の記述方法です。

式(2) : ビリアル展開

\[ Z = 1 + BP + CP^2 + DP^3 + \cdots \]

式(2)中の \(B\), \(C\), \(D \cdots\) はそれぞれ物質固有の定数でビリアル係数と呼びます。

また前述の通り、実在気体でも低圧条件下では理想的な振る舞いをするため、\(P \rightarrow 0\) とすれば \(Z \rightarrow 1\) となるように設計されています。

ビリアル係数を実験的に求めることで、様々な圧力条件における理想からのズレを知ることができます。

様々な気体の圧縮率因子 圧力依存性

様々な気体で圧縮率因子を求めるとそれぞれが系統的な挙動を示すわけではない事が分かります。

実際に気体の種類によって圧縮率因子 \(Z\) は圧力に依存して大きくも小さくもなります。

この原因について更に理解するために、次節で実在気体の状態方程式を説明していきます。

実在気体の状態方程式 : ファンデルワールス方程式

理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) に補正を施すことで、実在気体の挙動を上手く表現することができるようになります。

補正の仕方には いくつか種類がありますが、中でもよく利用されるのは次式で示すファンデルワールス方程式です。

式(3)

\[ P = \frac{nRT}{V - nb} - a \left( \frac{n}{V} \right)^2 \]

式中の \(a\) および \(b\) は物質固有の正の定数で、実在気体の圧力と体積の補正係数です。

ファンデルワールス方程式の成り立ちを確認してみましょう。

理想気体の状態方程式を基本として、前述の通り 気体の圧力と体積の補正を行います。

このとき重要なのが気体は分子から構成される事であり、その結果として

  • 実際に気体が取り得る体積は容器の体積よりも小さくなる
  • 実際に気体が容器の壁に及ぼす圧力は小さくなる

といった理想からのズレを生じることになります。

ファンデルワールスによる1つ目の補正は、体積 \(b ~ [\text{m}^3]\) の分子 \(n ~ [\text{mol}]\) 分の体積が容積 \(V\) から排除されるという考えで、実際に実在気体がとる体積を \(V - nb\) とします。

式(4)

\[ \begin{align*} &P = \frac{nRT}{V} \\[15pt] \rightarrow ~ &P = \frac{nRT}{V - \textcolor{red}{nb}} \end{align*} \]

続く2つ目の補正は、分子間に働く相互作用を考慮に入れます。

分子の間には凝集しようとする力が働いており、外に広がろうとする力が弱まる結果、実際に気体が示す圧力が小さくなります。

このとき圧力は濃度 \(\frac{n}{V}\) の2乗に比例して減少すると考えると上手く説明できることが知られている

分子間の相互作用パラメータを \(a\) として

式(5)

\[ \begin{align*} &P = \frac{nRT}{V - nb} \\[15pt] \rightarrow ~ &P = \frac{nRT}{V - nb} - \textcolor{red}{a \left( \frac{n}{V} \right)^2} ~~~ \big( \text{ = eq(3) } \big) \end{align*} \]

のように補正を行うことで、実在気体の非理想性を説明することができます。

※相互作用による圧力の減少が気体分子の濃度の2乗に比例するのは、衝突理論を用いた理論的アプローチで説明することが可能です。

圧縮率因子の挙動と原因

気体が理想的に振る舞わない様子は圧縮率因子が \(Z = 1\) からズレることによって表現できることを前述しました。

そして気体の非理想性の原因はファンデルワールス方程式を用いて理解できます。

圧縮率因子が1より小さくなる原因 ( \(Z < 1\) )

圧縮率因子が \(Z < 1\) となるとき、分子間相互作用による非理想性が現れていると言えます。

ファンデルワールス方程式(3)について、分子体積を \(b = 0\) として確認することが可能です。

式(6)

\[ P = \frac{nRT}{V} - a\left( \frac{n}{V} \right)^2 \]

両辺 \(\frac{V}{nRT}\) をかけて、\(Z = \frac{PV}{nRT}\) であることに留意して整理していくと

式(7)

\[ \begin{align*} \text{eq(7.1) :} ~~~~~ &\frac{PV}{nRT} = 1 - \frac{an}{VRT} \\[15pt] \text{eq(7.2) :} ~~~~~ &\therefore ~ Z = 1 - \frac{an}{VRT} < 1 \end{align*} \]

となります。

分子間相互作用 \(a > 0\) により \(\frac{an}{VRT} > 0\) であるため、\(Z < 1\) となる事が導かれます。

圧縮率因子が1より大きくなる原因 ( \(Z > 1\) )

前項とは逆に、圧縮率因子が \(Z > 1\) となる原因は気体を構成する分子が体積 ( 大きさ ) を持つためと言えます。

ファンデルワールス方程式(3)について、\(a = 0\) として次式について

式(8)

\[ P = \frac{nRT}{V - nb} \]

\(Z = \frac{PV}{nRT}\) であることに注意して整理していくと

式(9)

\[ \begin{align*} \text{eq(9.1) :} ~~~~~ &P (V - nb) = nRT \\[15pt] \text{eq(9.2) :} ~~~~~ &\Leftrightarrow ~ PV - nbP = nRT \\[15pt] \text{eq(9.3) :} ~~~~~ &\Leftrightarrow ~ \frac{PV}{nRT} - \frac{bP}{RT} = 1 \\[15pt] \text{eq(9.4) :} ~~~~~ &\Leftrightarrow ~ \frac{PV}{nRT} = 1 + \frac{bP}{RT} \\[15pt] \text{eq(9.5) :} ~~~~~ &\therefore ~ Z = 1 + \frac{bP}{RT} > 1 \end{align*} \]

となります。

分子の体積は \(b > 0\) により \(\frac{bP}{RT} > 0\) であるため、\(Z > 1\) であることが分かるでしょう。

実在系が理想的に振る舞う温度 : ボイル温度

実在系であったとしても温度を上手く設定すれば理想的に振る舞う状況が作り出せます。

ボイル温度 \(T_\text{b}\) と呼ばれる条件では、広い圧力範囲で圧縮率因子の圧力依存性が消失し \(Z \simeq 1\) となります。

これはビリアル展開した圧縮率因子 \(Z = 1 + BP + CP^2 + DP^3 + \cdots\) のビリアル係数が 0 になることを意味します。

しかし2次の圧力項以降にかかるビリアル係数 \(C\), \(D\), \(\cdots\) は非常に小さい値を取り、圧縮率因子 \(Z\) は圧力 \(P\) に対してほぼ直線的に変化するため、第2ビリアル係数 \(B\) にのみ着目すれば良いです。

ファンデルワールス方程式(3)を変形して第2ビリアル係数を求めていきます。

式(10)

\[ \begin{align*} &P = \frac{nRT}{V - nb} - a \left( \frac{n}{V} \right)^2 \\[15pt] \Leftrightarrow ~ &\left\{ P + a \left( \frac{n}{V} \right)^2 \right\} (V - nb) = nRT \end{align*} \]

両辺 \(nRT\) で割って、\(Z = \frac{PV}{nRT}\) であることに留意して整理していくと

式(11)

\[ \begin{align*} \text{eq(11.1) :} ~~~~~ &\frac{1}{nRT} \left\{ P + a \left( \frac{n}{V} \right)^2 \right\} (V - nb) = 1 \\[15pt] \text{eq(11.2) :} ~~~~~ &\frac{1}{nRT} \left( PV - nbP + \frac{an^2}{V} - \frac{abn^3}{V^2} \right) = 1 \\[15pt] \text{eq(11.3) :} ~~~~~ &\frac{PV}{nRT} - \frac{bP}{RT} + \frac{an}{VRT} - \frac{abn^2}{V^2RT} = 1 \\[15pt] \text{eq(11.4) :} ~~~~~ &\frac{PV}{nRT} = 1 + \frac{bP}{RT} - \frac{an}{VRT} + \frac{abn^2}{V^2RT} \\[15pt] \text{eq(11.5) :} ~~~~~ &\therefore ~ Z = 1 + \frac{bP}{RT} - \frac{an}{VRT} + \frac{abn^2}{V^2RT} \end{align*} \]

となります。

※テイラー近似を利用した級数展開で解析する方法もあります。

ここで \(PV \simeq nRT\) が成立するとして式(11.5)右辺から体積 \(V\) を消去して圧力 \(P\) で表すと

式(12)

\[ \begin{align*} \text{eq(12.1) :} ~~~~~ &Z \simeq 1 + \frac{b}{RT}P - \frac{a}{R^2T^2}P + \frac{ab}{R^3T^3}P^2 \\[15pt] \text{eq(12.1) :} ~~~~~ &Z \simeq 1 + \frac{1}{RT} \left( b - \frac{a}{RT} \right) P + \frac{ab}{R^3T^3}P^2 \end{align*} \]

2次の圧力\(P^2\) にかかる係数 \(\frac{ab}{R^3}T^3\) は限りなく小さな値をとるので無視できます。

そして \(Z \simeq 1\) を満たすためには1次の圧力 \(P\) にかかる係数が 0 になる必要があるので、

式(13)

\[ b - \frac{a}{RT_\text{b}} = 0 \]

このときの温度がボイル温度 \(T_\text{b}\) になります。

式(14) : ボイル温度

\[ T_\text{b} = \frac{a}{bR} \]

系の温度を式(14)で定めるボイル温度に設定することで、理想状態で成立する関係式を適用することが可能になります。

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今年で物理化学歴11年目になります。

大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。