自然現象を数学的に記述するためには偏微分の知識が必要不可欠です。
実際に理工学の学習を進めていくと次に示す偏微分公式は必ず目にするものと思われます。
\[ \begin{align*} &\left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)_z = \frac{1}{\left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z} \\[20pt] &\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z \left(\frac{\partial x}{\partial z}\right)_y = -1 \end{align*} \]
数学は図形的に理解することを推奨していますが、この偏微分の公式についてはかえって混乱を招く恐れがあると思います。
それは偏微分という計算の対象となる関数が多変数関数であり、複数の変数も持つためです。
そこで当ページでは上記の公式がどのように導かれるのか、簡単な数式のみで説明することとします。
以下で説明する内容を理解して、スムーズな公式の利用ができるようになりましょう。
偏微分の公式を見ていく前に、1変数関数を微分 ( 常備分 ) に関する公式も紹介しているので、是非御覧ください。
逆数関係
下記に示す関係式は、1変数関数の場合における逆関数の微分を表す公式です。
式(1)\[ \frac{dx}{dy} \frac{dy}{dx} = 1 ~ \Leftrightarrow ~ \frac{dx}{dy} = \frac{1}{~~~ \frac{dy}{dx} ~~~} \]
微分記号は、まるで分数であるかのように扱うことが可能である事を如実に表しています。
そして多変数関数を偏微分した偏導関数についても逆数の関係が成立します。
ここでも簡単のために2変数関数 \(z(x, ~ y)\) の場合を取り上げると、以上の内容は次のように記述されます。
式(2)\[ \left( \frac{\partial x}{\partial y} \right)_z \left( \frac{\partial y}{\partial x} \right)_z = 1 \]
これは式(1)をそのまま偏微分の形式に置き換えただけです。
式(2)左辺の偏導関数を分数のように見れば、それらが約分されて1が得られる、と理解することも可能です。
しかし一般的に偏導関数や偏微分係数を分数として扱うことはできません。
式(2)の結果は「ある条件」がそろったために偏導関数を分数のように扱うことができた特殊な場合です。
そしてそのある条件とは \(z\) を固定した状況のみを考えることを指します。
ここで偏微分では、1変数関数の微分と比較して、演算対象となる変数以外は定数のように固定して扱うという違いがありました。
またその固定した変数は記号の右下に明示します。
つまり式(2)左辺に現れる偏導関数は \(z\) を固定していることを表しています。
なぜ \(z\) を固定するという条件が式(2)を成立させるために必要なのか、考えてみると簡単に分かります。
\(z\) を固定して \(z(x, ~ y) = C\)( \(C\) は定数)とすると、変化できるのは残された \(x\) と \(y\) だけです。
そして、\(z\) を固定するまでは、\(x\), \(y\) はそれぞれ独立しており、どちらも適当な値を選択してよかったのですが、\(z\) を固定することによって \(x\) の変化に依存して \(y\) が変化するようになるために、これは1変数関数として考えてきた曲線(あるいは陰関数)と変わりありません。
例えば、2変数関数 \(z(x, ~ y) = x^2 + y^2\) の場合、以下に示す図のような3次元空間中に広がる立体的なグラフが描かれます。
そこに \(z(x, ~ y) = 1\) と定めれば \(x^2 + y^2 = 1\) となるので、円の方程式として \(xy\) 平面上での取扱ができるようになります。
このように、\(z\) をある値に固定することによって \(xy\) 平面の問題に落とし込む事ができるために逆数関係が成立するということができます。
偏微分では「何で微分をするか」に気を取られてしまうかもしれませんが、何を固定しているかという点も非常に重要なのです。
以下は、「論理をダラダラ説明するだけではなく、数学的にはどのように導出できるのか?」という疑問をもつ筆者のようなタイプの方向けに当てたものです。
まずは、2変数関数 \(z(x, ~ y)\) について常に \(z\) が一定の場合を考えるのでした。
すると、\(x\), \(y\) が変化したとしても \(z\) は変化しないので、変化量 \(dz\) は0となります。
式(3)\[ \begin{align*} & z(x, ~ y) = C \\[10pt] \Rightarrow ~ & dz = 0 \end{align*} \]
一方で \(x\) の変化および \(y\) の変化を表現する関係式も知りたいところなので、\(z(x, ~ y)\) を \(x\) および \(y\) について解いた関数 \(x(y, ~ z)\), \(y(z, ~ x)\) を考えてみましょう。
次に示すのは \(x(y, ~ z)\), \(y(z, ~ x)\) の全微分です。
※全微分についてはこちらのページで解説しています。
式(4)\[ \begin{align*} dx = \left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)_z dy + \left(\frac{\partial x}{\partial z}\right)_y dz \\[20pt] dy = \left(\frac{\partial y}{\partial z}\right)_x dz + \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z dx \end{align*} \]
今、\(dz = 0\) を条件に考えているので、式(4)は次のように書き換えられます。
式(5)\[ \begin{align*} dx = \left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)_z dy \\[20pt] dy = \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z dx \end{align*} \]
最後に、式(5)から \(dy\) を消去することで、目的の関係式を得ることができます。
式(6)\[ \begin{align*} & dx = \left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)_z \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z dx \\[20pt] \Leftrightarrow ~ & 1 = \left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)_z \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z \\[20pt] \therefore & ~ \left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)_z = \frac{1}{~~~ \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z ~~~} \end{align*} \]
同じように、もし \(x\) を固定、あるいは \(y\) を固定した場合では、上記の議論同様にして一連の関係式が導出できます。
式(7)\[ \begin{align*} \left(\frac{\partial y}{\partial z}\right)_x \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x = 1 \\[20pt] \left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y \left(\frac{\partial x}{\partial z}\right)_y = 1 \\[20pt] \left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)_z \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z = 1 \end{align*} \]
循環関係
前節で示した偏微分の逆数関係を利用して、もう1つ関係式を導いてみましょう。
まず関数 \(z(x, ~ y)\) および、この関数を \(y\) について解いた関数 \(y(z, ~ x)\) の全微分を以下に示します。
\[ \begin{align*} dz = \left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y dx + \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x dy \\[20pt] dy = \left(\frac{\partial y}{\partial z}\right)_x dz + \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z dx \end{align*} \]
上式を連立させて \(dy\) を消去して整理してみましょう。
式(8)\[ \begin{align*} & dz = \left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y dx + \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left\{ \left(\frac{\partial y}{\partial z}\right)_x dz + \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z dx \right\} \\[20pt] \Leftrightarrow ~ & \left\{1 - \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial z}\right)_x \right\} dz = \left\{ \left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y + \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z \right\} dx \\[20pt] \Leftrightarrow ~ & 0 = \left\{ \left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y + \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z \right\} dx ~~~ (~ \because \text{eq(7)} ~) \end{align*} \]
式(8)2行目の左辺( \(dz\) の項)について、係数は式(7)から0となります。
したがって、任意の \(dx\) に対して恒等的に式(8)が成立するためには係数が0に等しくなれば良いです。
式(9)\[ \left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y + \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z = 0 \]
式(9)を再度式(7)を利用して、次のように整理することができます。
式(10)\[ \begin{align*} & \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z = - \left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y \\[20pt] \Leftrightarrow ~ & \frac{\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z}{\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)_y} = -1 \\[20pt] \Leftrightarrow ~ & \left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)_x \left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)_z \left(\frac{\partial x}{\partial z}\right)_y = -1 \end{align*} \]
得られた結果は少し違和感を覚えるかもしれませんが、非常に重要なことなので覚えておきたいところです。
前節では注意だけに留めましたが、式(10)から偏導関数を一般に分数としては扱えない事が理解できます。
もし偏導関数を分数として見てしまうと、左辺はきれいに約分されて1になることが期待されますが、実際には-1となります。
また、式(10)左辺を見ていただければ \(x\), \(y\), \(z\) が循環しているため、循環関係などと呼ばれることもあります(あまりその名称は利用されていない印象ではあります)。
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今年で物理化学歴11年目になります。
大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。