熱とは何か説明できますか?
当コンテンツでは熱とは何か、またよく混同される温度との違いについて解説していきます。
熱とは
早速結論から示しましょう。次に示すのは日本化学工学会による熱の説明です。
熱とは、エネルギーが温度差を推進力として移動する際にとる過渡的な形態である
日本化学工学会
日常的に「熱」というと、温度が高い事をイメージするかと思います。
しかし上記の「熱」の説明には「温度」が利用されており、事実としてこれらは明確な違いがあります。
では、その違いとは何でしょうか。
温度は「状態」。熱は「流れ」。
私達は温度の扱いに慣れていて、例えば気温 10 \([\text{℃}]\) と聞くと寒そうであるし、30 \([\text{℃}]\) と聞くと暑くなるのを知っています。
その他、水が 100 \([\text{℃}]\) で沸騰こと、また 0 \([\text{℃}]\) で凝固することは常識ですよね。
このように温度は、着目している物の状態を表すときに利用します。
温度のより詳しい説明はこちらを参照ください。
一方で熱はというと、前節で示したとおりエネルギーが移動する際の形態を表します。
ポイントは"移動する"という点で、先に紹介した温度が「状態」であることと比較すれば、熱は「流れ」であると言えます。
そして熱の流れを作り出すのが温度差です。川の水の流れが高低差によって生じるのと似ています。
これを模式的に表したのが次の図です。
それぞれ \(t_{\text{high}} [\text{℃}] > t_{\text{low}} [\text{℃}]\) の温度をもつ物体です。
これらの物体の接触部には \(t_{\text{high}} - t_{\text{low}}\) の温度差があるために熱の流れが生じます。
また川の水の流れに例えると、高低差が大きいほど多くの水が下流に流れるのと同じ様に、温度差が大きいほど多くの熱が流れるのです。
温度差によって熱が流れるとはどういうことでしょうか。
実はこれは日常的に経験していることでもあります。
これはカップに入った熱湯です。
何もせずに放置しておくと、熱湯は次第に冷めていきます。
先程の示した異なる2つの物体とは異なり、熱湯は時間とともに温度が変化していきます。
この温度変化こそ熱が移動したことによって生じる現象です。
熱の移動は、はじめに熱湯と接触しているカップを介し、最終的には周囲に存在する空気へと伝わっていきます。
以上のように、温度と熱の違いを理解できたことと思われます。
温度は「状態」を表し、たった1つの何 \([\text{℃}]\) かという情報がありさえすれば良いです。
一方で熱は「流れ」であると説明しました。そして熱を生み出す「温度差」は高い温度と低い温度の2つの情報が必要になります。
移動した熱の定量化
熱の移動が温度差のある箇所で生じる事を理解したところで、では一体どのくらいの熱が移動したのか定量化できないか考えましょう。
ここで前節で説明した熱湯の温度変化に着目します。
カップに入った熱湯は時間とともに冷めていきますが、際限なく冷めていくのではなく、最終的にある温度まで到達するとそこから変化が見られなくなります。
熱湯の温度変化は熱移動によって生じることから、逆に温度変化しなくなったという事はその時点で熱移動は行われていないと言えます。
ここまでは熱湯のような高温物体が冷めていく状況を見てきましたが、他方で熱を受け取る低温物体はどうなるでしょうか。
結論から言うと、高温物体は熱移動により温度が冷めるのとは逆に、低温物体は熱を受け取って温度が上がります。
そして最終的にはそれぞれの物体は \(t_{\text{high}}\) と \(t_{\text{low}}\) の中間の温度に落ち着きます。
つまり高温物体から低温物体へ熱が移動することで、両者の温度差を埋めていくと理解できます。
先の熱湯の例について考えると、低温物体に相当するのは周囲の空気ということになります。
ちなみに、周囲の空気は熱を受け取ることで温度が上昇するかというと微々たるものです。
なぜならカップに入った熱湯に対して周囲の空気は何杯もの量であるため、多少の影響は無視できます。
話を戻して…高温物体と低温物体の接触による熱の移動量を定式化していきます。
次に示すのはそれぞれの物体の接触前後における温度です。
接触前 | 接触後 | |
---|---|---|
高温物体 : 1 | \(t_1 = t_{\text{high}}\) | \(t\) |
低温物体 : 2 | \(t_2 = t_{\text{low}}\) | \(t\) |
ここで高温物体を1、低温物体を2と名付けました。
接触後の温度はそれぞれの物体で互いに等しく、すなわち温度が無いために両者の間で熱の移動は起こりません。
熱の移動量は何度も言うように温度差によって決まるので、接触前後における温度差に着目して次の比を考えてみます。
\[ \frac{t_1 - t}{t - t_2} \]
この比は用いる物体の素材によって異なる値を取るはずです。
例えば、炎天下にさらされたプールサイドを素足で歩くと飛び跳ねるくらい熱いですが、プールの中は熱くないというように、素材ごとに温度の変わりやすさは異なります。
したがって物質固有の定数を \(C_i ~ (~ i = 1, ~ 2 ~)\) を用いて次のように表します。
\[ \frac{C_2}{C_1} = \frac{t_1 - t}{t - t_2} \]
この定数 \(C_i\) は熱容量と呼ばれる物理量で、詳しくは別のコンテンツで導入していきます。
式(2)に示したように、それぞれの物体の温度変化と熱容量は逆比例の関係にあることが実験的に確認されています。
そして分母を払うことによって現れる量を新たに熱 \(Q\) と定めます。
\[ Q \equiv C_1 (t_1 - t) = C_2 (t - t_2) \]
式(3)は高温物体1と低温物体2の間で、同じ量だけ熱の移動があることを意味します。
つまり高温物体は \(Q\) の熱を放出し、低温物体は \(Q\) の熱を吸収するということです。
まとめ
熱とは、エネルギーが温度差を推進力として移動する際にとる過渡的な形態のことであり、数学的には次式で表現されます。
\[ Q = C (t - t_0) \]
ここで \(Q\) は熱、\(C\) は物体の熱容量、\(t_0\) は物体が温度変化する以前の温度、\(t\) は変化後の温度を表しています。
【サイト運営 : だいご】
今年で物理化学歴11年目になります。
大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。