熱力学で扱う系は大きく分けて開放系か閉鎖系です。
また更に重要であるのは熱力学系が置かれる環境であり、等温条件および断熱条件の2つを解説します。
これらの違いを明確にしておくことは、熱力学現象の理解のための必須事項となります。
系の物質量について : 開放系と閉鎖系
熱力学系には種類があって、「開放系」と「閉鎖系」に分けられます。
例えば、流体 ( 気体や液体 ) が入った蓋付き容器があるとして…
蓋が開いていれば「開放系」であり、蓋が閉じていれば「閉鎖系」になります。
- 開放系 : 容器の蓋が開いている
- 閉鎖系 : 容器の蓋が閉じている
以下でそれぞれ詳しく説明をしていきます。
開放系
開放系とは系とその外側との間で物質のやり取りができる系のことです。
先ほど例としても挙げましたが、蓋をしていない容器などが開放系に当たります。
上図は液体を入れた容器です。容器に蓋はされていません。
もしこの液体に揮発性があれば液体から気体に状態変化し、更には容器外へと流出していまいます。
逆に、気体が凝縮することによって液体に戻る事も、つまり物質の流入も有り得ます。
このように開放系では系と外部との間で物質のやり取りが可能であることを理解できたかと思われますが、実際には理論化して定量的に扱うのは難しいです。
例えば、外部からどのくらい影響があるかなどです。
外からの不純物混入など論外過ぎますが、系への影響を考えると十分有り得るファクターですよね…。
またその他、系と外部の境界をどこに定めるかと言った問題もあります。
とは言え、系の設定次第では1成分の開放系を作り出すことも可能で、いわゆる気相と液相を行き来する「相変化」などを考える際に効果を発揮してくれます。
閉鎖系
一方、閉鎖系とは系とその外側との間で物質のやり取りができない系のことです。
流体などを入れた容器に蓋をして密閉することで、中身が外に流出しないようにします。
閉鎖系では系から物質が流出することがないため、系内で起こる現象や変化の定量的扱いが容易になります。
逆に、開放系として扱わなければ表現ができない現象が多いことも事実です。
例えば、化学系に適用しようとした際にその影響を顕著に受けます。
それは化学反応が開放系の特徴である物質の移動 ( 物質量の変化 ) を伴うためです。
熱力学における基本事項や重要法則の理解には閉鎖系で事足りますが、化学系へ展開するためには開放系の理解を避けることはできません。
系の温度について : 等温条件と断熱条件
前節では系の物質の移動に着目して話を展開してきましたが、当節では系の温度に着眼点を置いて話を進めます。
系の温度について考える上で重要なのは、系をどんな環境に置くかです。
主に等温条件と断熱条件の2つがあり、これらの違いを表したものが次です。
- 等温環境下 : 系の内部温度は、外部環境の温度と等しくなる
- 断熱条件下 : 系の内部温度は、外部環境の影響を受けず、系が決定する
それぞれのパートに分けて詳しく解説してきます。
等温条件
等温条件とは系が等温環境下に置かれた状況を表します。
例えば、気体などの流体が封入された容器を室温 25 \([\text{℃}]\) 中に置いておくなどの状況を考えると良いです。
この容器のように、着目している対象のことを「系」、系の外側を「環境」と呼ぶことにしましょう。
等温環境下では、系と外部環境の温度と等しくなるという性質があります。
これは経験的な事実であり、熱力学においては要請として定めています。
実際に温めた飲み物などを容器に入れて置くと、時間が経つと室温にまで冷めると言った具合。
このように系と環境の温度が等しくなったとき、系は熱平衡状態にあると言います。
詳しくは以下のリンクから詳細をご覧いただけます。
ちなみに系の温度が変化する要因は、系と環境との間で生じる「熱の移動」です。
熱とは温度差がある箇所で生じ、高温側から低温側に流れていきます。
そして熱の移動に伴って温度が変化し、温度差がなくなったとき熱の移動は止まります。
このようにして等温環境に置かれた系は、環境と等しい温度になるわけです。
断熱条件
断熱条件とは、等温条件とは異なり系と環境との間で熱のやり取りが遮断された状況を言います。
系を断熱するには断熱壁を利用します。
また、環境の温度は系に何ら影響を及ぼさないので、特に考える必要はありません。
等温環境下に系を置いたとき系の温度は環境によって変化しましたが、断熱系の場合ではどうでしょうか。
結論を言うと、断熱系では内部の温度は初期温度のまま一定に保ってくれます。
身近なもので例を挙げると、魔法瓶がそれに当たります。
実際に温かい飲み物を入れておいても長時間保温してくれますよね。
ただし誤解を招く恐れがあるので注意しておきますが、断熱系に外から何らかの刺激を与えると上記の限りではありません。
つまり断熱系に力を加えれば温度は変化してしまいます。
これは断熱操作として別のページで解説していますので参考にしてください。
まとめ
熱力学で扱う系について、系とその外側との間で物質のやり取りと熱のやり取りに着目して分類しました。
それらをまとめたものが以下の表になります。
系の種類 \ やり取り | 物質 | 熱 | |
---|---|---|---|
開放系 | 等温環境下 | ○ | ○ |
断熱条件下 | ○ | × | |
閉鎖系 | 等温環境下 | × | ○ |
断熱条件下 | × | × |
ちなみに当ページの内容からでは、断熱条件下にある開放系がどのようであるかの判断は難しいと思われますが、
断熱壁に小さな穴を開けたりすることによって、断熱条件への影響を押さえながら物質のやり取りを可能にすることもあります。
ただしこのとき系は外からの仕事を受けることに成るので、系内部の温度は変化してしまします。
【サイト運営 : だいご】
今年で物理化学歴11年目になります。
大学入試2次数学でたった3割しか得点できなかったいわゆる数弱落ちこぼれ。それでも好きこそものの上手なれと言ったところか、学会で最優秀賞受賞したり首席卒業できてしまったので、役に立つ知識を当サイトに全て惜しみなく公開しようと思います。ブックマークをオススメ。